事件現場清掃人は見た 10円カミソリで自殺した「60代男性」が娘に遺した哀しい一言

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今までありがとう

 遺体は、死後半日で発見されたため、腐敗臭もなかった。清掃もスムーズに行われたという。

「シャンプー、石鹸、歯ブラシ、肌着などをゴミ袋に入れていると、浴室の片隅にあったカミソリが目に留まりました。いわゆる10円カミソリです。そのピンク色の柄は血に濡れ、親指と人差し指の指紋がくっきりとついていました。これが男性の命を奪った凶器であることは間違いなさそうでした。警察は、事件性がないとわかると、現場に凶器を残しておくのです」

 清掃を終え、女性に浴室を確認してもらった。

「彼女の話によると、男性は60代で、妻と死別して団地で一人暮らしをしていたそうです。持病があり、長く体調も良くなかった。娘さんは結婚して団地近くに住んでいて、父親の様子を見に時々通っていたそうです。亡くなる2日前に会った際、なぜか『今までありがとう』と声をかけられたといいます。彼女はその言葉に違和感を覚えたそうですが、おそらくその時には死ぬ覚悟をしていたのでしょう」

 高江洲氏は、亡くなった父親を責める気にはならなかったという。

「父親はオムツをしていたそうです。そんな自分が許せなかったのではないかと思います。家族に面倒をかける前に逝ってしまったのではないでしょうか。残された家族にすれば、残念でならないことは言うまでもありません。けれども、男性は最後までプライドを持って生きたのではないか、と感じました」

デイリー新潮取材班

2021年2月5日掲載

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