事件現場清掃人は見た 10円カミソリで自殺した「60代男性」が娘に遺した哀しい一言

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 自殺や孤独死で遺体が長く放置された部屋は死者の痕跡が残り、悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、自宅の風呂場で自殺した男性のケースについて聞いた。

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 高江洲氏が請け負う特殊清掃の仕事のうち、約3割は自殺による原状回復だという。孤独死に比べ、自殺によって亡くなった人は発見されるのが早い。死の直前まで、人との関わりがあるケースが多いからだ。

「晩秋の昼下がり、私の携帯電話に事務所宛ての電話が転送されてきました。若い女性からの仕事依頼でした」

 と語るのは、高江洲氏。

「彼女は、警察から父親が自宅で亡くなったと知らされたそうですが、現場は見ない方がいいと言われたそうです。『どんな様子なのかはわかりません』と憔悴し切った様子でした。亡くなった場所は浴室。それを聞いて直感的に自殺ではないかと思いました」

天井まで血しぶき

 高江洲氏はすぐ現場に向かった。

「指示された住所に行くと古い団地があり、入り口に20代とみられる女性が待機していました。彼女は、『来てくださって本当にありがとうございます』と丁寧に礼を言い、私の右手を震える手で握りしめました。かなりの不安を感じていることがわかりました」

 高江洲氏が部屋に入ると、すぐに血の匂いが鼻についたという。

「廊下の床には血痕があって、それをたどると浴室がありました。浴室と廊下を隔てる折り戸の曇りガラスには、無数の赤い点と手の跡が見えました」

 意を決して扉を開けると、そこには想像した通りの光景が……。

「浴槽内には、血で染まった真っ赤な水。壁は風呂の椅子を起点として、天井まで血しぶきが達していました。亡くなる間際に苦しんだのか、血まみれの手で触ったと思われる跡が浴室の至るところにありました。やはり自殺でした。頸動脈を切ったのです」

 高江洲氏が女性に清掃にかかるおおよその料金を伝え、作業を始めようとすると、「父の最後の様子を知りたいから、浴室を見ておきたい」と言い出したという。

「長年事件現場を清掃してきた私でさえ衝撃をうけたのですから、まして肉親が見たら……。正直言って、心配になりました」

 高江洲氏は一度は断ろうとしたが、彼女の意志の強いまなざしに負け、浴室に付き添ったという。

「浴室のドアを開けた瞬間、彼女は腰が砕けたようによろめきました。でもすぐに立ち直り、浴室内を目に焼き付けるかのようにゆっくり見た後、ダイニングの奥にある和室の畳の上にへたりこみ、涙を流していました」

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