加古川中2自殺、部活動顧問に「DVで逮捕」の過去 「いじめメモ」の証拠隠滅を指示
2016年、兵庫県加古川市に住む中学2年の女子生徒が自ら命を絶った。彼女が発したSOSは教師から黙殺され、いじめの存在を示すメモは、あろうことか、部活動の顧問らがシュレッダーにかけて破棄。その隠滅の首謀者である顧問には、暴行での逮捕歴が――。
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2016年9月、兵庫県加古川市で、市立中2年の女子生徒がいじめを苦に首を吊って自殺した。
その日の朝、14歳の彼女は自室の机にこう書かれた紙を置いて家を出ている。
〈どうして世の中がこんなになってるの?イジメをして何が楽しいの?される人の気持ちがどんなのか分かる?分からないよね。クヤシイ…イタイ…シニタイ…フクシュウシタイ…コロシテヤリタイ…色んな気持ちが交差していく。結局、最後にはお前らが不利になるのにね♪カワイソウだね。〉
女子生徒が亡くなったあと、筆箱のなかから折り畳まれた紙片が見つかった。
〈ミジンコ以下の生物、クズ、死ね、生きる価値0、ボケ、カス、呪う、調子のんな、目ざわり、キショ、キモちわる、クズ、ゴキブリ、死ねばいいのに〉
見馴れぬ筆跡の赤字の下に、鉛筆書きで〈おまえがな〉とある。娘の字を目にした父親は、数カ月前に彼女から「ミジンコ以下の生物って何?」と訊かれたのを思い出した――。
このいじめ自殺の事件は、令和の今も終わっていない。
「今年1月3日、共同通信が報じたのですが」
と、社会部記者が言う。
「学校側や教育委員会の対応があまりにデタラメで、昨年9月、生徒の遺族が加古川市を相手取り、約7700万円の損害賠償を求めて神戸地裁姫路支部への提訴に及んだというのです」
デタラメな対応とは、
「女子生徒が亡くなる約1年前、15年11月のことです。彼女へのいじめについて部員に記させたメモを、彼女が所属していた剣道部の顧問や副顧問がシュレッダーにかけて破棄。自殺の調査をした加古川市いじめ問題対策委員会(第三者委員会)の聴き取りに対しては、メモを“紛失した”と答えている。共同の記事では、破棄した事実を隠蔽しようとした可能性が指摘されています」
付言すれば、と社会部記者。
「顧問らは、保身のため、いじめ自体をなかったことにしようとして“証拠隠滅”をしたのではないか。そう受け止めることができます。遺族としては、娘さんの重要な“SOS”が消された形です。むろん、自殺の原因解明の妨げにもなる。第三者委員会は17年末に自殺はいじめが原因と認定しましたが、当時は顧問側のメモを“紛失した”という言い分も認められていた。遺族にとっては不完全な認定に他なりません」
いじめに関する時系列は掲載の図表を参照いただくとして、メモが破棄されるまでの経緯を、加古川市の関係者がこう語る。
「中学で剣道部に入った女子生徒は、15年の夏ごろから“うざい”と悪口を言われ仲間外れにされました。廊下ですれ違いざまに足をかけられて転ばされ、“ダサい”と嘲笑される。試合の移動中の車内では椅子を荷物でふさがれて座れない。そんなことが積み重なり、11月には彼女が学校の公衆電話から“もう部活をやめたい”と泣きながら母親に訴えたこともありました。それで両親が顧問に相談したのです」
顧問は部内で何らかのトラブルが発生していると受け止め、教室に10名ほどの女子部員全員を集めた。副顧問も同席のうえでだ。
「部員たちにメモ用紙を配り、顧問は“自分がいじめられているとか、いじめているとかあれば全部書け”と伝えました。メモを回収して内容を確認した顧問は“お互いさまやろ”と部員たちに言い、いじめは勘違いだったと結論づけた。女子生徒の親には“部内で話し合った結果、仲間外れのような事実はあったが、お互いさまだった。全員納得のうえで仲直りした”と伝えています」
やらずもがなのアンケートだったと言えまいか。さらに罪深いことに、後日、顧問は年下の副顧問に指示をし、メモをシュレッダーにかけさせていたのである。
メモに記されたいじめ被害
女子生徒は、その際に出したメモ以外に、学校が実施した「学校生活に関するアンケート」にも“部活しんどい”と書いていた。
1年の3学期頃からは、担任に提出するノートに手が震える絵などを描き、〈最近、けいれん(手)がずっとしてる〉〈しんどい、だるい、食欲ない、けいれんやばい〉と記し、明らかにSOS信号を発している。
2年になっても剣道部内でのいじめは続き、クラス内でも無視され、一人だけで過ごす時間が増えた。加古川市関係者によると、
「16年の夏ごろになると、女子生徒は“死にたい”とはっきり口にするようになったのに、依然として部内で彼女が仲間外れにされている状況は変わりませんでした。しかし担任も学校側も、もちろん剣道部の顧問も、一切対処することはなかった。彼女は部活を続けており、顧問はその様子をずっと見ているはず。なのに彼女の自殺後、第三者委に“いじめではなくお互いさまだと思った”という旨の主張をしているんです」
顧問の言い分を第三者委の報告書から引くと、
〈精神的あるいは身体的にダメージを受けていると感じていた時点でいじめになるのかなと思うが、それをお互いにやり合っている場合は、必ずしもいじめとは捉えられない場合もあり、当該トラブルもまさにそうした状況であった〉
あくまでこれはメモを破棄し、それを隠蔽した時点での主張である。巧妙な詭弁というほかあるまい。同じ報告書で、副顧問は、
〈嫌な思いをしている生徒がいたことは事実であり、認めたくはないが、これはいじめであったと思う〉
と述べているのだ。なお、顧問の指示でメモをシュレッダーにかけたと明かしたのはこの副顧問である。
第三者委によるいじめ認定後、彼は18年6月の遺族との面談でそのことを打ち明けた。メモには、舌打ちや悪口といった女子生徒のいじめ被害や、実際の目撃情報も記されていたという。
そんな副顧問の告白で目算が狂った顧問には、いじめの証拠以外にも“隠したい事実”がある。先の加古川市関係者が証言する。
「19年2月、暴行で加古川署に逮捕されているのです。女子生徒の自殺で兵庫県教委から厳重注意処分を受けた3カ月後のことでした。夕方、加古川市内のドラッグストア駐車場で、妻の肩をわし掴みにして前後に揺さぶったのです。110番通報したのは、乳児を抱いていた妻でした」
このとき顧問は28歳。保健体育科の教諭でもあり、体力は人並み以上だ。妻はよほど恐怖を覚えたのではないか。関係者が続ける。
「暴行で逮捕されたら、ふつうは教員を続けられないと思うでしょう。しかしこの顧問は、学校を移りはしたものの、いまも教鞭をとっている。父親は県内の市教委の幹部や中学校長などの要職を歴任。県の教育功労者として表彰もされた、地元教育界の“大物”です」
顧問は逮捕翌日に神戸地検姫路支部へと送致されているが、
「3月中旬、不起訴となりました。加古川市教委や県教委からは軽微な処分を受けただけで、教員は免職になっていないのです」
県教委に確認を求めると、
「懲戒免職をはじめ、処分の線引きは明確には決まっていません。むろん猥褻や体罰、放火のような重たい案件では免職となりますが、そうでないケースで逮捕され、起訴されたとしても、あくまで当方で審査したうえで処分を下します」
答える必要ありますか
県教委はその内容を明かさないものの、暴行事件に関する処分は出したという。軽微なものだったのだろう。
ここは顧問本人に訊ねるしかあるまい。まず、女子生徒の自殺やメモを破棄したことについては、
「お答えできないんです。市の教育委員会を通してってことで」
と無表情で答える。暴行で逮捕された話を問うと、しばし押し黙ったあと、
「それって、答える必要ありますか? 答える必要ありますかね。プライベートなことなので、答える必要ないですよね」
不敵な口ぶりでこう返すのだった。
顧問が逮捕された当時の市教委教育長はどう答えるか。
「教育委員会が事案などを適切に判断して一つの決着がついている。職務遂行上、問題がないとのことであれば、現場に復帰するなり研修をして、違う部署で働くなりというのが一般的だと思いますけれど。いまの私の立場からは、とにかく、亡くなった当該生徒さんのご冥福をお祈りするしかありませんので……」
そう口にはするが、どこか他人事のようだ。女子生徒が自殺した当時の校長も、
「私は一切、何もお話しできませんので。コメントする立場にない」
では誰がコメントする立場にあるというのか。彼らが“指名”する市教委に訊いたところ、
「(逮捕については)当該教諭のプライバシーに関わることでもありますので、コメントを差し控えさせて頂きます。現在において、当該教員が教職員として教壇に立つことが不適切であるとする理由はないと考えております」
一人の女子生徒の死に責を負うべき者たちからは、微塵も当事者意識が感じられない。
「13年にいじめ防止対策推進法が成立しましたが、実際はほとんど機能せず、形骸化しているんです」
そう語るのは、いじめ問題解決に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」の小森美登里理事。自身も、いじめ自殺で一人娘を亡くしている。
「私は、命にかかわる重大問題だということをいまだにまったく理解していない先生が多すぎると思っています。いざ問題が起こるとどのように対応すればいいのか、基本的な部分が分かっていない。いじめの報告が先生や大人の耳に入った時点で、すでにかなり深刻な状態になっているんです。そこから様子を見る猶予などありません。子どもたちの“つらい”“苦しい”という声が聞こえたら、まず、いじめを疑うべきです」
なのに今回、証拠を隠滅した挙げ句、暴行で逮捕された教員がいまも教壇に立っているのである。
「一般の会社ならばアウトですよね。でも学校の先生の場合は、何か問題が起きると先生同士でかばい合う。私自身、その姿を何度も見てきました。結局のところ、我が子を亡くした親御さんに対し、再発防止策を講じて真摯に答えるのではなく、誤魔化すことに腐心しているのではないでしょうか」
冒頭で触れたように、女子生徒の遺族は加古川市を提訴している。学校側が適切に対応していれば自殺は防げた、と。
裁判の第1回口頭弁論を2月10日に控えたいま、遺族は代理人弁護士を通じて次のような言葉を寄せた。
「毎日いつもの調子で帰ってくるのではないかと錯覚さえする日々を送っております」
その胸中を占めるのは、
「(いじめの)加害者への恨み、教育委員会への憤り。日々その闘いで一日が始まり一日が終わり、悲愴感は尽きません。教育の現場で再発防止を実現してほしいと願って、水面下で遺族側から和解策を提示し対話を試みました。しかし、教育委員会が最後まで法的責任はないという考えに固執したことによって、話し合いは決裂。彼らは“遺族に寄り添う”という言葉を口にしますが、それはあまりに軽く、心に響くことはありませんでした」
愛娘を失ってから4年。遺族は自殺の真相究明と“消されたSOS”の全貌を求め、新たな闘いに踏み出そうとしている。
一方で、剣道部顧問は事件には口をつぐみ、平穏な教員生活を続けているのだ。