単身赴任先での不倫がバレた転勤夫 東京に戻った今もアパートで孤独な一人暮らし

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『今、近くにいるのよ』

 心機一転、今度は九州で単身赴任。職場の人間関係にも慣れて仕事もしやすくなってきたころ、北海道の彼女から突然、連絡があった。それまでもときどき「友だちとして」メッセージのやりとりはしていて、今回の赴任先も伝えてあった。

「土曜日の昼間でしたか、今、近くにいるのよーと電話がかかってきたんです。びっくりしました。あわててマンションを出ると彼女、入り口でニコニコしながら立っていました。思い切ったことするなあと思ったけど、正直言うとうれしかった」

 しばらく会わずにいても、彼女とは話が弾んだ。人生の中のほんの少しの時間しか共有していないのに、再会して改めて向き合ってみると、彼女と自分の間には居心地のいい空間があった。

「この年になると、好きとか恋しいとか、そういう気持ちより、居心地がいい相手というのがいちばんなのかもしれませんね」

 彼女の母親は九州の出身なのだという。

「このあたりなら私のほうが詳しいからドライブしない?」

 そう言って彼女の運転でドライブへ。まるで20代に戻ったかのように、はしゃいで過ごした。北海道では人目を気にして、彼は自分の部屋に彼女を入れたことはない。彼が彼女の自宅に通っていた。ところが夕食をとり、「これからホテルに泊まる」という彼女を彼は押しとどめた。

「せっかく来てくれた彼女を離したくなかった。泊まっていきなよ、一緒に飲もうと誘いました」

 ところがその晩、やってきたのだ、妻が。世の中には、なんともタイミングの悪いことが起こるものだ。

東京勤務になるも…

 車を駐車場に入れたコウタロウさんが彼女とふたりでマンションのエレベーターへと向かうと、そこに妻がいたのだ。

「まず私と妻が顔を合わせて固まり、そのあとで彼女が固まりました。彼女は去ろうとしたけど、荷物が私の部屋にある。だからいちかばちか、あえて落ち着き払って言いました。『今日はドライブにつきあってくれてありがとう。あなたの荷物、とってくるから』と。すると彼女は『ここにいますね』と。妻は黙って一緒にエレベーターに乗り込んできました。私の気持ちをわかってくれるのはそこにいる彼女なのに、どうして心の離れた妻が平然と乗り込んでくるのか……。内心、そう思っていましたね」

 彼女のキャリーバッグをとると、すぐに引いて下に降りた。彼女は「ごめんなさい」と言った。「長い単身赴任生活で初めて妻が来たんだよ」と、彼は苦笑したという。「悪いことはできないわね」と彼女は寂しそうだった。泊まるところが決まったら連絡してと言い残して、彼は後ろ髪を引かれる思いで部屋に戻った。

「妻は『どういうこと?』と怒っていましたね。私は『仕事関係で知り合った女性で、本当にドライブしただけ』と言い張りました。どうしてキャリーバッグが部屋にあるのというから、荷物を預かっただけだ、と。説明になってないのはわかっていたけど、私としては突然やってきた妻のほうにどうして、と聞きたかった。妻はフッと鼻で笑って『こんなことだろうと思ったの』と。オレをこうやって追い込んだのはきみじゃないかと言いたかった」

 妻は疲れたと言ってすぐに寝てしまった。彼女からは連絡がこない。眠れないまま夜中に彼女にメッセージを送ったが返信はなかった。夜が明けてからとろとろと眠り、目を覚ますと妻はいなかった。

 その後、妻とは子どものことなどを事務的に連絡しあうだけで、彼もほとんど家には帰らなかった。北海道の彼女はそれきり何も言ってこない。業を煮やした彼は、北海道を訪れた。だが彼女の店はすでに閉店しており、自宅も別の人物が住んでいた。名前しか知らない彼女を短期間で探し出すのはむずかしいと思い、彼は九州へ戻った。

「一昨年、東京勤務になりました。しばらくは転勤なしだと思います。ところがやはり自宅の居心地が悪いんですよ。妻とはきちんと話し合ってもいないし。そこで会社がアパートを借りてくれると嘘をついて家を出ました。うち、会社まで1時間半以上かかるから」

 アパートはもちろん自腹だ。昔から給料の一部を別口座に入れてもらうようにしてあるので,家賃はそこから捻出している。小さな冷蔵庫と電子レンジも買った。平日だけではなく週末もそこで過ごすことが多くなった。

「実は去年の春、北海道の彼女と連絡がとれたんですよ。コロナを心配して連絡してきてくれたんです。彼女は親戚がいる北陸で店をやっているとか。まだ会えていないし、これからどうなるのかもわかりませんが、少なくとも生きていてくれてよかったと思っています」

 彼の孤独な生活に、ほんの少し光が差したようだ。一度はきっちり妻と向き合わなくてはいけない。それがわかっていながら、どうにもならない現実があると彼は言う。何が家族をこうさせたのか。単身赴任家族がみな心の離れた状態になるわけではない。家族からひとり逸脱してしまった気持ちを抱えながら、彼は「現実をあまり見ないようにして」今日も仕事をしている。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月3日掲載

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