「バイデンから電話が来ない」と気を揉む韓国人 原因は「習近平コール」か、それとも――

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「いわゆる慰安婦」と発言の国務副長官

 バイデン政権の国務副長官に就任したW・シャーマン(Wendy Sherman)氏も「米国の同盟国である日本を叩く韓国」を批判したことがあります。

 国務次官だった2015年2月27日、「Remarks on Northeast Asia」と題するワシントンでの講演で「民族感情は悪用されかねない。政治指導者が過去の敵を非難し、安っぽい拍手を受けるのは容易だ。だが、そんな挑発は発展ではなくマヒをもたらす」と述べたのです。

 名指しはしませんでしたが、韓国を念頭に置いたと誰もが分かります。また、この講演の中でシャーマン氏は「いわゆる慰安婦(so-called comfort women)」という単語を使いました。

 韓国政府は「性奴隷(sex slave)」という単語を使って世界に「強制連行イメージ」を広めようとしていますから、それを牽制したと受け止められました。韓国世論は激昂しました。

 朝鮮日報は社説「米国務次官の誤った過去史発言、このまま見逃すことはできぬ」(2015年3月3日、韓国語版)で「B・オバマ(Barak Obama)大統領も訪韓した際に『慰安婦は非常に恐ろしい人権侵害』と言ったではないか」と米政府の「変節」を猛烈に非難しました。

 この社説の載った翌々日の3月5日に、M・リッパート(Mark Lippert)駐韓米大使はソウルで韓国人に襲われ、重傷を負いました。

 犯人は刃物で切りつけた際「オバマはなぜ変わったのか」と叫んだと報じられています。朝鮮日報など韓国メディアの扇動が引き金となった可能性が大です。

「人権運動を抑圧」と批判の次官補代理

――副長官は国務省のNo.2ですからね。

鈴置:ええ、シャーマン氏の任命は韓国にとって痛手です。もう1つ、文在寅政権が大いに困惑したであろう人事があります。国務省で朝鮮半島を担当する次官補代理にJ・パク(Jung Pak)氏が就任したのです。

 韓国系米国人で、韓国の内情を知り尽くしている人です。CIA(中央情報局)で分析官を務めた後、ブルッキングス研究所に移りましたが、政権入り直前の1月22日、「North Korea’s long shadow on South Korea’s democracy」という論文を発表しました。

 J・パク氏はこの論文で「文在寅政権は人権運動家や北朝鮮からの亡命者に圧力をかけている。北の体制に批判的な記者の取材を妨害もした。権力を自身に集中させる点では、過去の保守派の大統領と変わらない」と言い切りました。

 米国務省で韓国を担当する高官が、就任前の論文とはいえ、韓国の民主主義に大きな疑問符を付けたのです。

 見出しに「北朝鮮の影」とあるのは「保守派の大統領は悪名高い国家保安法を使って親北朝鮮的な情緒まで取り締まった。一方、文在寅政権は親北政策への反対を抑え込むために、(保守政権から)やられたことをやり返している」との論理で説明したからです。

 韓国保守の「従北政権」批判と通じる主張です。また、リベラル派の代表的な論客ながら、文在寅政権下での民主主義の後退を厳しく批判する崔章集(チェ・ジャンジプ)高麗大学名誉教授の意見を繰り返し引用しています。

 これを読んだ韓国人の多くが「こんな政権が続く限り、韓国をまともな国扱いしないぞ」と米国から通告されたと思うでしょう。

 そもそも韓国人が「日本よりも上」と考えるのは「経済力で日本を追い越しそうなうえ、民主主義の面ではとっくに日本を超えた」と信じているからです。その「日本よりも上の民主主義」を米国から否認されれば、自分の国の左派政権に怒りが向くでしょう。

韓国に通貨でお仕置きした米国

――米国は「警告」のために米韓首脳の電話協議をさらに遅らせる?

鈴置:それは分かりません。中央日報の「バイデンの『ベル』はいつ鳴るか…『首脳電話会談順番表』でみる韓半島の運命」(1月29日、日本語版)は米国の新大統領が各国首脳に電話をかける順番を分析しました。

 それによると、D・トランプ(Donald Trump)大統領は日本にかけた翌日に韓国に電話した。オバマ大統領が韓国に電話したのは日本の5日後だったそうです。

 この相場観から言って、いくらなんでも、そろそろ米韓電話協議は開かれるでしょう。一応は、同盟国なのです。それに、米国が韓国に「お仕置き」をする手はいくらでもあります。

 1997年、金泳三(キム・ヨンサム)政権が通貨危機に陥った時はドルを貸さず、日本の通貨スワップも止めました。同政権が米国の軍事情報を中国に渡していたことが原因と見られます(『米韓同盟消滅』)第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。

 韓国経済が縮み始めました。2020年には人口減少を記録しました。生産年齢人口はすでに、2017年をピークに減り始めています。

 というのに今、韓国の株価は急騰。金融当局がバブルと警告しています。韓国の場合、株価の暴落が通貨危機を呼ぶ可能性があります。ウォンが国際通貨ではないためです。米国がつけ込むチャンスはいくらでもあるのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月2日掲載

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