俳優「滝田栄」、八ヶ岳への「メガファーム進出」を阻止した背景を語る
1983年のNHK大河ドラマ「徳川家康」で主演した滝田栄氏(70)。数十年来、東京と長野の八ヶ岳山麓で生活を送ってきたが、近年は八ヶ岳の自然を守る闘いに明け暮れていた。
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風光明媚な山麓の自宅兼アトリエを拠点に仏像制作や講演活動を行ってきた滝田氏。だが昨年来は、“闘争”に力を注いでいる。八ヶ岳山麓への大規模酪農施設進出許すまじ――。
大規模酪農施設、いわゆるメガファームの進出計画とは、山麓に270ヘクタールもの敷地を持つ八ヶ岳中央農業実践大学校が、敷地内にメガファームを誘致。乳牛1200頭を牛舎で飼育することを指す。
事業は県内最大規模とされるが、背景に大学校の財政難があり、土地売却などで財政基盤を強化する狙いも。この進出を食い止めるべく地元住民の有志で運動してきたが、そのコアメンバーが滝田氏。話を聞こう。
「ここは御柱祭の出発地でもある神聖な場所。私は八ヶ岳の美しさに惹かれ40年前から住んでいます。家の向かいに大学校の土地が広がっているのですが、この学校には“前科”がある。だから昨秋、新聞でこの計画を初めて知った際、すぐに怪しいと思いました」
電話一本で断念
どんな“前科”なのか。
「20年ほど前、大学が巨大な養鶏場を建てたんです。鶏1万羽の大合唱は凄まじかったですが、臭いなどについて、学校側は“最先端の施設なので迷惑はかけない”と言っていました。しかし突然、アンモニアが腐ったような強烈な臭いが部屋に流れてきた。鶏糞処理プラントが壊れたそうです。もうその養鶏場は使われていませんが、鶏糞は残っている。いまもその臭いに悩まされ続けているんです」
この問題だけでなく、
「養豚場の豚が脱走したり、豚の糞尿が川に流れることも。そのたびに学校のルーズな対応に悩まされてきた。だから今回、他県の牧場経営者に意見を求めました」
すると粗雑な問題が浮上。
「放牧なら7頭しか飼えない広さに1200頭を押し込める。動物福祉への配慮などありません。1日の牛の糞尿は50トンにも上ります。学校はまた“最先端の脱臭装置を導入する”と言っていますが、ここは毎年、雷や倒木で3日から1週間の停電が起きる土地。停電の間はどうなるのでしょう」
昨年末の住民説明会には、
「大学校の運営法人の理事長やメガファームを手がける酪農企業の代表は姿を見せない。私たちが示した牛の糞尿処理や自然災害によるリスク、家畜の疫病といった問題に、責任ある立場の方からなんの説明もないのです。大学校幹部との面会でも、平行線でした」
すると突然、1月13日に計画が白紙撤回となった。
「その前日、大学校に運営法人から電話一本で断念する旨の連絡が入っただけで、撤回の過程すら分からない。この杜撰さでは、経営難解消目的の不透明な土地売却話や問題のある事業が再浮上する可能性もあります」
学校側は断念の理由を明言しなかったが、ともあれ、滝田氏はメガファーム進出計画を食い止めた。しかし今後も、愛する自然のためには、“鳴くまで待とう”の家康のようには我慢強く構えていられなさそうである。