田中将大「僕らは何もしていないのに…」不祥事で“幻のセンバツ”に泣いた有名選手

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 3月19日に開幕する第93回選抜高校野球。これまで数多くのプロ野球選手がセンバツから巣立っていったが、その一方で、不運な出場辞退で涙をのんだ球児たちも少なくない。“幻のセンバツ”に泣いた、後の有名選手たちを振り返ってみよう。

 近畿地区2位の好成績を挙げたにもかかわらず、野球部員とは直接関係のない不祥事による推薦辞退で甲子園への道を閉ざされたのが、上宮時代の黒田博樹(元広島)だ。

 西浦克拓(元日本ハム)、溝下進崇に次ぐ3番手の控え投手だった黒田は、速球に威力があったが、制球難を克服できず、チームが優勝した1991年秋の大阪府大会では、1試合も登板できなかった。だが、練習で制球力が増し、調子が上がっているのを見た田中秀昌監督が「これは投げさせないわけにいかない」と考え、近畿大会準々決勝の日高戦でリリーフ起用すると、準決勝のPL学園戦、決勝の天理戦と3試合連続で好救援を見せ、準優勝に貢献。翌春のセンバツ出場も確実視されていた。

 ところが、12月に野球部前監督の授業中の体罰が告訴問題に発展したことから、学校側が自主的に推薦辞退を申し入れ、甲子園出場は幻と消えてしまう。翌92年のセンバツで3本塁打を放ち、“ゴジラ”の異名をとった松井秀喜(元巨人)も「センバツに出る予定だった上宮に、球の速い投手がいると聞いてました」と回想しており、後のメジャーリーガー2人が甲子園で顔を合わせることができなかったのは、残念と言うしかない。

 センバツは、上宮に代わって岡島秀樹(元巨人)の東山が繰り上げ出場し、上宮も黒田卒業後の翌93年のセンバツで初優勝。ひとつの出場辞退が回りまわって、新たな人間ドラマを次々に生みだした。

 優勝候補に挙げられながら、代表決定後の不祥事で無念の出場辞退となったのが、敦賀気比の内海哲也(西武)だ。

 99年秋、圧倒的な投打で北信越大会を制した敦賀気比は、翌春のセンバツでは、東海大相模や智弁和歌山とともにAランクの評価を受け、最速143キロの本格派・内海も大会ナンバーワン左腕と注目されていた。

 ところが、センバツ開幕を目前に控えた3月2日未明、2年生部員が飲酒のうえ、乗用車を無免許運転し、追突事故を起こしたことから、事態は暗転する。

 高校野球連盟(高野連)は当初、一部の部員が起こした事件として、連帯責任は問わず、出場を認めたが、その後、開かれた大会運営委員会で、反対意見が続出。「学校側の意向を問う」という形になり、これを受けて同7日、同校は出場辞退を申し出た。事実上の出場辞退勧告であり、ファンの間で「高野連は自分たちの立場を守ることを優先した」と批判する声もあった。

 傷心の内海は座右の銘である、連合艦隊司令長官・山本五十六の名言「男の修行」を胸に刻んで試練に耐え、最後の夏にリベンジを期したが、県大会決勝で天谷宗一郎(元広島)の福井商に2対3で敗れ、一度も甲子園のマウンドに立つことなく終わっている。

 優勝候補といえば、06年、田中将大を擁し、夏春連覇を狙っていた駒大苫小牧も、同様の不祥事で出場辞退に追い込まれている。

 北海道大会、明治神宮大会を相次いで制した同校は、センバツでも優勝候補の最右翼と目されていたが、3月2日、野球部の卒業生10人が前日の卒業式の夜に居酒屋で飲酒、喫煙をして、警察に補導された事件が明らかになった。

 現役部員が関与していなかったので、通常ならセンバツは出場が認められる可能性もあったが、野球部は前年、前部長の暴力事件で高野連から警告処分を受けたばかり。前部長の謹慎中に新たな不祥事が起きたとあっては、申し開きができない。翌3日、「春のセンバツは、心技体揃ったチームが出る大会ということを重く受け止めた」学校側は、出場辞退を申し出た。

「何で僕らは何もしてないのに、出られへんねん」と心の葛藤に苦しんだ田中だったが、「夏はみんなで甲子園に」とチームメイトと心をひとつにして、目標を実現。夏の甲子園決勝で斎藤佑樹(日本ハム)の早稲田実と延長15回引き分け再試合の名勝負を繰り広げたのは、周知のとおりだ。

 春が絶望になっても、「まだ夏がある」とよく言われるが、黒田と内海は最後の夢も断たれており、改めて甲子園への道のりの遠さを痛感させられる。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月31日掲載

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