納得いかない落選で高野連を提訴、ニセ電話事件…選抜高校野球を巡る“三大事件簿”とは
いたずら電話事件
選考の当落線上にある高校に、高野連を名乗るニセ電話が相次ぐ事件が起きたのが93年。出場校を決定する選考委員会が開かれた2月1日夕方、群馬県館林市の関東学園大附に「高野連のサトウ」と名乗る中年の男の声で電話がかかってきた。
山口澄夫校長が電話に出ると、男は「センバツが決まりました。5番目で決まりました」と告げた。同校は前年秋の関東大会準々決勝で横浜に1対4で敗れ、同じ8強の法政二、大宮東と最後の5枠目を争っていた。
だが、準優勝の横浜より成績面で劣る法政二は、地域性で不利になるため、5校目は関東学園大付、大宮東のいずれかとみられており、山口校長が男の言葉を信じたのも無理はなかった。
すぐさまグラウンドに出て報告すると、野球部員たちは飛び上がって大喜び。戸ヶ崎弘美監督も感涙にむせび、直後、歓喜の胴上げで宙を舞った。
ところが、約15分後、テレビのニュースで出場34校が発表されたのに、同校の名前がない。驚いて高野連に確認すると、落選して補欠校になったことがわかった。男の電話は悪質ななりすましだったのだ。改めて選手たちにことの仔細を説明すると、大きなショックを受け、泣きだす者もいた。
その後、法政二、大宮東、世田谷学園、市船橋、早稲田実にもいたずら電話があったことが判明(うち大宮東、世田谷学園、市船橋は選出)。いずれも同一犯とみられ、高校野球に詳しい人物の愉快犯的な犯行と推定されたが、結局、犯人はわからずじまい。球児たちの気持ちを踏みにじるような卑劣な行為に、世論は怒りで沸騰し、代表決定校への連絡方法のあり方も問われることになった。相手の電話番号を表示する「ナンバーディスプレイ」が普及する前の悲劇でもあった。
地元の高校が落選し、補欠校になったことに納得できないとして、群馬県太田市の清水聖義市長が高野連に抗議する事件が起きたのが02年。前年秋の県大会で優勝した太田市商(現太田市立)は関東大会でも4強入りし、準決勝で浦和学院に1対8で敗れた。
同年の関東は4枠だったので、4強なら選ばれてもおかしくないが、浦和学院戦での7回コールド負けが響いたことに加え、同県勢の前橋も4強入りし、優勝校の宇都宮工に3対4と善戦したことから、地域性重視で、準々決勝敗退の水戸短大付(現水戸啓明)が4枠目を射止めた。
マスコミに数々の話題を提供する“名物市長”として知られる清水市長は2月4日、高野連の牧野直隆会長宛てに選考基準の公開を求める手紙を郵送するとともに、自身のHPでも「強いチームが選抜されるのが原則であるなら、これは論外。『外された理由』を教えてやって欲しい」と訴えた。
これに対し、高野連側は「秋季大会は、センバツの予選でないと言うほかはない」と説明。その後、牧野会長名の回答文を受け取った清水市長は「返答してくれたことはありがたいが、今後の選考にも不安、心配がある。納得する、しないの問題ではなく、どうしようもない」と当惑しつつも、これ以上の行動に出るつもりはないことを表明し、騒動に終止符を打った。
昨年の秋季大会後も、現場から東京の準優勝校と関東有力校による決定戦を望む声が上がるなど、選考基準の“不透明さ”は、依然として解消されていない。
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