広島の前例もある…神の子「田中将大」電撃復帰でも、楽天に残る数々の“不安要素”

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 1月28日、プロ野球界に大きなニュースが飛び込んできた。ヤンキースをフリー・エージェント(FA)になっていた田中将大を古巣の楽天が獲得したと発表したのだ。事前の報道では、田中は、今年は日本で1年プレーし、来年から再びMLBに復帰とも噂されていたが、楽天との2年契約を結んだ。今年で33歳という年齢を考えると、このまま楽天で選手生活を終える可能性は高そうだ。

 そして、田中の復帰でがぜん勢いがついた楽天。主な先発投手の通算勝利数を並べてみると、田中が177勝(日米通算)、涌井秀章が144勝、岸孝之が132勝、則本昂大が85勝と、この4人だけで538勝となり、12球団で圧倒的な数字である。さらに、昨年のドラフトでは投手で一番人気となった早川隆久を引き当てるなど、日本シリーズ4連覇中のソフトバンクをも上回る布陣という声も多い。

 しかし、田中が加入しただけで、楽天をパ・リーグの優勝候補筆頭とするのは早計ではないだろうか。まず、気になるのが投手陣をリードする役割を担う捕手の弱さだ。昨年は2年目の太田光が開幕から正捕手を任されたが、シーズン中盤に故障で離脱。盗塁阻止率こそ高かったものの、攻守ともにレギュラーとしてはまだまだ不安が大きい。昨年のシーズン途中に巨人から金銭トレードで田中貴也を獲得して強化を図ったとはいえ、ソフトバンク、ロッテ、西武の上位3球団と比べると見劣りしている。過去にはダイエー時代の工藤公康が当時若手だった城島健司を引き上げたように、実績のある投手が捕手の成長を促進する例もあるだけに、ここでも田中にかかる期待は大きくなりそうだ。

 昨年リーグトップのチーム打率、得点をマークした打線も万全ではない。まず大きいのが、昨年24本塁打、63打点をマークしたロメロが抜けた穴だ。新たにディクソンとカスティーヨの外国人野手を補強したが、ともに中距離打者であり、ロメロほどの長打力が発揮できるかは疑問が残る。

さらに、カスティーヨは、キューバから亡命する際に結んだ大型契約で、既に多額のサラリーを得ており、日本でプレーするモチベーション面を不安視する声も聞こえてくる。また、昨年ルーキーながらチームトップの盗塁数と4位の安打数をマークした小深田大翔の2年目のジンクスも気になるところだ。

 不安要素は野手だけではない。先発の層は確かに厚くなったが、昨年の救援防御率はリーグ5位とリリーフ陣は、決して強力とは言えない。松井裕樹が先発から抑えに再び戻ることはプラス材料だが、セットアッパーの牧田和久は、今年で37歳と大ベテランとも言える年齢に差し掛かっており、実績のあるブセニッツは昨シーズン、安定感を欠く投球が目立った。彼ら二人に代わるような新戦力が出てこないと、今年も終盤に苦しむ試合が増えることになりそうだ。

 自慢の先発投手陣も、今年の満年齢をみると、田中が33歳、涌井が35歳、岸が37歳、則本が31歳と全員がベテランというのも気になるところ。岸と則本は過去2年間でともに合計10勝と低迷。涌井も昨年見事な復活を遂げて最多勝を獲得しているが、その前の3年間は平均5勝に終わっている。田中もメジャーでのキャリアハイが2016年だったことを考えると、下降期に差し掛かっていることは否定できない。

 田中の復帰で思い出されるのが、2015年に黒田博樹が復帰した時の広島である。前年のチームは2年連続のAクラスとなる3位となり、前田健太、大瀬良大地、野村祐輔という安定した先発陣に、黒田が加われば優勝争いも可能と言われていた。しかし、蓋を開けてみれば、前田が15勝、黒田が11勝、新外国人のジョンソンも14勝をマークしたにもかかわらず、結果は前年を下回る4位に終わっている。シーズン前に先発投手と、その勝ち星を足し合わせて予想することが多いが、その通りにいくケースはまずないというわかりやすい事例だろう。

 そして、楽天の何よりも気になる点は、球団の方針がブレていることだ。昨年は大型補強が実らず、4位に沈み、シーズン終了後には中長期的にチームを強化する方針に舵を切ると言われていた。昨年結果を残したロメロを放出したのもその一環だろう。田中ほどのネームバリューがある選手であれば、獲得に動くのは当然かもしれないが、行き当たりばったりの補強に見えるのもまた確かだ。

本来GMは中長期的な視点でのチーム強化、監督は目の前のシーズンを勝つことが求められるはずだが、石井一久GM兼新監督が二つの役割を兼任していることで、“歪み”のようなものも感じられる。

 数々の不安要素を挙げたが、“神の子”とも言われた田中がそれらを吹き飛ばすことができるのか。その神通力がどこまで健在かに注目だ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2021月1月30日掲載

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