成人式が“地元で生きていく派”にとって重要な理由 大卒へ“稼いでいるアピール”できる実利も(中川淳一郎)

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「成人式論争」が毎年ネット上では発生します。基本的には「成人式は大事派」vs.「成人式なんてどうでもいい派」で、「どうでもいい派」が毎度「大事派」を冷笑し、バカにするのが定番です。

 福岡県北九州市や沖縄のド派手なヤンキー風成人男性とか、花魁風女性などが嘲笑の対象になるわけです。もう一つ対象として追加されるようになったのが、2018年の成人式直前、着物レンタル・着付け業者「はれのひ」がトンズラしてしまった件。新成人がテレビの取材に対し、「一生に一度のことなのに」「1年も前から準備していたのに」「写真を撮るのを楽しみにしていたのに」「50万円も使ったのに」と嘆く姿に対して「そんなどうでもいいことにカネを使う方がバカ」という被害者の傷に塩を塗るような発言が相次ぎました。

 そして今年ですが、緊急事態宣言発令に伴う中止も相次ぎ、「はれのひ」の時と同様の展開になり、ツイッターには「まじで成人式中止になったの一生恨むからな」の声も。ここまで大事にしている様子から、ますます「どうでもいい派」は滑稽に感じ、意気軒昂だったように見えました。

 私も自分の成人式は地元・東京都立川市の式に参加していません。公立中学時代の友人に会いたい気持ちは少しはあったものの、高校はアメリカだったため以後付き合いもなくなり、正直、大学時代の友人の方が大事になっていた。だからこの日は登山部の仲間と一緒に丹沢の冬山登山に行ってしまいました。

 成人式をあそこまで大切にする理由はあまりよく分からなかったのですが、今年、こんなツイートを見ました。原文そのままではありませんが、趣旨を紹介します。

「成人式は、中卒・高卒が大卒に対して『オレらはこんなに稼いでる』と見せる最後のチャンス。だからあそこまで本気で準備する」

 どんな学歴でも立派に稼いでいる方はたくさんおられるとは思いますが、この意見は「どうでもいい派」に「そうした側面もあったか!」と新たな気付きを与えたようです。“ヤンチャができる最後の日”的な覚悟を決める儀式だから重要だという説は聞いたことがありましたが、ここに新説が追加されたのです。

 成人式を重視するかどうかというのは、「地元」を基盤に生きていくか否かの違いも大きいでしょう。32歳の時、中学時代の友人と地元のスナックに集まったのですが、居心地は悪かったです。何しろ生きている世界が違うし、皆結婚して小学生の子供がいる。最大の関心事は次に買う車と安全靴と息子のサッカー部について。そして皆迷うことなく、自分の選んだ人生に自信を持っているようにも感じました。

 彼らは皆、成人式に行ったようです。以後の安定した人生を聞くと、大卒中心と思われる「どうでもいい派」の「転職しようかな」「留学しようかな」みたいに悩んでばかりの人生と比べて、正直彼らの方が幸せなのでは、とも感じてしまいました。

 今、佐賀県唐津市に住んでいますが、年齢問わず地元の人々が道端や飲み屋で「ヨッ!」なんてやっています。これを見て、地元で生きることを決めた人にとって成人式は極めて重要かつ実利のある儀式だったのでは、とも思うわけです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年1月28日号掲載

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