「講談社元編集次長・妻殺害事件」 “無罪”を信じて帰りを待つ「会社」の異例の対応
「七つの大罪」を立ち上げたカリスマ編集者
大手出版社の敏腕編集者が殺人容疑で逮捕――。事件は連日、ワイドショーで大きく報じられた。朴被告は入社以来18年間、「週刊少年マガジン」編集部に勤務したベテラン編集者で、健常者と聴覚障害者との恋愛を描いて映画化もされた「聲の形」や、累計3700万部を超えるファンタジー大作「七つの大罪」などを立ち上げたカリスマとして、内外から評価が高かった。
だが、逮捕直後こそ世間は騒いだものの、カリスマ編集者のその後の様子はあまり話題に上ることはなかったかもしれない。この間、朴被告は一貫して無実を訴え続けてきた。
「私は妻を殺していません」
19年2月、東京地裁で開かれた初公判で、朴被告は起訴事実を否認した。弁護側は「妻は階段の手すりに結びつけたジャケットで首を吊って自殺した」と無罪を主張。一方、検察側は「妻から育児を手伝わない不満や自分の母親をけなされたことから突発的な殺意を抱いて、寝室で首を圧迫して殺害した」として殺人罪で懲役15年を求刑した。
同年3月、東京地裁は検察側の主張を全面的に認め、朴被告に懲役11年の実刑判決を言い渡した。判決の直後、朴被告は「していない! 間違っています」と法廷で叫んだ。
今も朴被告を社員として雇用し続けている講談社
20年7月から始まった東京高裁の控訴審でも、一貫して無罪を訴えてきた朴被告。足掛け3年に及んだ法廷闘争を、朴被告の母親とともに、毎回欠かさず傍聴席の前方で見守り続けた人物が、講談社の乾智之広報室長であった。
「記者たちの間でも、講談社の幹部が毎回傍聴に来ていることは話題になっていました。乾広報室長は、そのまま法廷の外で囲み取材を受けることもあった」(前出・司法記者)
実は朴被告は現在も、休職扱いではあるが講談社の社員なのである。日本社会では社員が重罪を犯した場合、会社は逮捕や起訴段階で解雇処分を下すのが通例だ。だが講談社は、朴被告が「殺人」で逮捕・起訴され、さらに一審で有罪の実刑判決を受けた後も解雇せず雇い続けているのだ。
なぜこのような異例の対応が取られたのか。講談社関係者が明かす。
「もちろん、悩みに悩み抜いた上での判断です。逮捕、起訴、一審判決、節目において議論が重ねられました。当然、その都度、解雇すべきという意見も出ましたし、今もあります。ただ、社員である朴被告が一貫して無実を主張しているという重い事実がありました。『社員を信じたい』。最終的には野間省伸社長が下した方針でしたが、非上場企業だったからこそ出来た判断だったでしょう」
朴を守り抜く――。社長の“特命”を受けた広報室長は公判の傍聴だけでなく、朴被告と面会するため東京拘置所に通い続けてきたというのだ。
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