工藤会「トップ」に異例の死刑求刑 福岡県警のメンツを潰した4つの市民襲撃事件
永山基準との齟齬
どれも背筋が凍るような凶悪事件だが、この求刑を一般の方はどう感じただろうか。
朝日新聞の西部版が1月15日に掲載した「(法廷 工藤会事件)『人命軽視、甚だしい』 トップに死刑求刑、検察が非難」の解説記事で、永山基準に言及している。
1983年、最高裁は連続射殺事件の判決に際し、死刑の適用基準を詳細に示した。犯罪の性質や犯行の動機など9項目が列挙されたが、一般的には「被害者が1人なら無期懲役以下、2人はボーダーライン、3人以上は死刑」と解釈されている。
野村被告が命令・指揮した“4市民襲撃事件”で命を落とした被害者は1人。朝日新聞の解説記事は、この点に注目した。
《工藤会トップに対し、検察側が突きつけた求刑は極刑だった。直接関与した証拠はなく、最高裁が示した死刑適用指標「永山基準」に照らせば1人殺害で死刑求刑は異例。それでも踏み切ったのは、一般市民を何のためらいもなく襲う工藤会特有の悪質性、凶暴性を考慮し、過去の死刑判決事件と比べても刑事責任は「同等かそれ以上」と判断したからだ》
《何の落ち度もない市民が突然襲われる――。理不尽な恐怖を社会から取り除くには組織壊滅しかない。そんな捜査当局の強い決意がにじみ出た求刑と言える》
“メンツ”を潰した工藤会
『山口組対山口組 終わりなき消耗戦の内側』(太田出版)の著作があり、暴力団の動向に詳しいジャーナリストの藤原良氏は、「私は無期懲役だと予測していたので、死刑求刑には驚きました」と振り返る。
「組長が殺害を指示したことが問われた判例でも、死刑判決はありません。また元漁協長の射殺事件では、実行犯に無期懲役などの判決が確定しています。実行犯は無期懲役で、主犯が死刑というのは、違和感を覚える人も少なくないのではないでしょうか」
異例の求刑を藤原氏は、「工藤会が虎の尾を踏んだ」と指摘する。無軌道に暴力をエスカレートさせる工藤会は、福岡県警だけでなく警察庁のメンツも潰していたのだ。
一部の新聞社は、03年に発生した「ぼおるど襲撃事件」を転換点に挙げている。暴力追放運動に取り組んでいたクラブ「ぼおるど」に工藤会の組員が手榴弾を投げ入れ、従業員9人が重軽傷を負った。
藤原氏は「ぼおるど襲撃事件」の凶悪性も認めながら、「元警部銃撃事件」のインパクトが上回ると指摘する。
「暴力団を取材していると、噂話も含め、現役の警察官やOBが、組員から危害を加えられたという情報は入ってきます。ただ、山口組を例に挙げると、そうしたトラブルは全国各地で起きるため、なかなか注目されません。一方の工藤会は北九州市という狭いエリアで4つの事件を立て続けに起こし、その中に元警部の銃撃事件がありました。他の暴力団関係者も『工藤会は目立ちすぎた』と口を揃えて言っていました」
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