格安の「自費PCR検査」って、どれくらい有効なのか? ウィルスの専門家に聞いた
緊急時の検査とは?
PCR検査では、感度の問題も重要だ。PCR検査では、陽性と陰性を判断する基準値に「Ct値」を使う。
宮沢准教授によると、Ct値に国際的な規準はない。日本は40──あるいはそれ以上の場合も──に設定しているが、これは相当に高い数字だという。
一方、台湾は35に設定しており、これは日本より緩い。つまり日本のPCR検査では陽性でも、台湾では陰性になる可能性があるというわけだ。
日本経済新聞(電子版)は20年11月8日、「PCR『陽性』基準値巡り議論、日本は厳しめ?」の記事を配信した。
この記事に、《米ニューヨーク・タイムズの報道では、米国でも基準値は40前後に設定されているが、一部の専門家から「30~35程度が適正だ」との声も上がっているという》との一節がある。
「Ct値が40だと、まず偽陽性が増える懸念があります。平時の研究なら40は妥当でしょう。しかし今は緊急時です。『検出された新型コロナウイルスが非常に微量でも、しっかりと陽性反応を出す』という検査が必要だとは思えません。
検出された新型コロナウイルスが微量なら、他人に感染させる危険性が低いので陰性で構わない。他人に感染させる懸念がある人をしっかりPCR検査で見つける。感染初期のことを考えると、超微量のウイルスを検出する必要があるという考えもあるが、PCR検査の結果は被験者の社会生活に大きな影響を与えるので、極力偽陽性をゼロにする、という検査方針こそ、緊急時に求められているのではないでしょうか」
厚労省の見解
年末年始は、自費PCR検査を受けて帰省した人も少なくなかった。宮沢准教授は「陰性が出たら帰省しよう」という発想自体が間違っていると指摘する。
「自費PCR検査で、仮に陰性という正確な検査結果が出たとしましょう。安心する人も多いと思いますが、私に言わせれば錯覚に過ぎません。今、陰性であるということは、今後2日程度は他の人にうつさないということしか意味しないからです」
PCR検査で陰性だったからといって、未来永劫、新型コロナに罹患しないわけではない。その1週間後には感染しているのかもしれないのだ。
「むしろ自費PCR検査で陰性だったことを過信し、マスクもせずに深夜まで繁華街を飲み歩けば、感染リスクは一気に高まります。
マスクを装着し、手洗いやうがいを励行し、必要以上に大声を出さないといった感染予防に気を配っている人なら、格安PCR検査など利用しなくとも、新幹線や飛行機に乗って感染したり、感染させたりする可能性はほとんどないのです。大半の人にとって、自費PCR検査を利用する必要があるとは思えません」
厚労省のサイトでは、自費検査を検討する状況の具体例として、《仕事で海外に行く場合》などを挙げている。
その上で、《たとえ検査結果が陰性であっても、医師により感染していないと診断されない限りは、感染していないとはいえません》と、“検査結果の独り歩き”に警鐘を鳴らしている。
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