「感染症法の改正」より優先すべきは? 民間病院の患者受け入れ、2類相当の引き下げ

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飲食店を罰することに意味はあるのか

 ところで感染症法の改正については、入院を拒否した感染者に1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すことも検討されているが、米村教授は、

「この改正は百害あって一利なしだと思います」

 と断じ、こう説明する。

「一つは、法律の理念に反します。現行の感染症法は1998年、旧伝染病予防法に代わって作られました。感染者に犠牲を強い、隔離して社会全体に感染が及ばないようにする、という旧法の考え方ではマズいので、多くの議論を重ね、感染者の医療を優先して入院措置をとることになったのです。旧法の考え方への逆戻りは非常に問題です。次に、新型コロナに対応するうえでマイナスです。入院措置の徹底は、発症した人は非常に危険で発症していない人は危険ではない、というときに有効です。しかし、いまは無症状者や未発症者が市中に大勢いて、感染を拡大させている。そこに罰則を導入すれば、陽性と診断されると不利益が多いと考える多数の人が、検査を受けなくなるでしょう」

 政府は通常国会で、感染症法のほか特別措置法も改めるつもりだ。飲食店などの事業者が休業や時短の命令に応じなければ、50万円以下の罰金を科すというのだ。しかし米村教授は、

「たとえば食品衛生法では、各飲食店の衛生管理状況などを、保健所が立ち入り調査したうえで、個別に営業停止などの判断を下します。個別の認定なしに、きちんと感染対策をしている店も、ルーズな営業をしている店も、十把一絡げに規制するのは非常にまずい」

 と批判。国際政治学者の三浦瑠麗さんも言う。

「特措法改正の背景には、国民の恐怖を起爆剤に、これまで権限が及ばなかったところに強制力をもたせたいという、政府与党の思惑が感じられます。しかも緊急事態宣言下、指示に従わない人を罰したいという感情にとらわれている人が多く、法改正しやすいということでしょう。しかし、この決断は罪刑の均衡性を揺るがし、感染症に関してなら人権侵害をしてもよいという前例になりえます」

 国民が冷静さを失っている隙にとは、たしかに禁じ手である。そのうえ、

「罰則規定は人々の行動変容に影響は与えると思いますが、それが望ましいのか。韓国ではマスクをしていない人を撮影して密告すると、その人に罰金が科され、密告者に報奨金が出る。中国では団地内の相互監視が強権的な監視国家の強制力をさらに補完している。こうしたことを始めれば、われわれが前提とする社会から乖離してしまいます。日本は飲食店が対象ですが、罰則を設ければ自粛警察が出動して、“外は明かりを消していたけど店内は点いていた”などと密告が始まるでしょう。そんなことを本当にしたいのでしょうか」

 そして、こう加える。

「いま一番大事なのは、飲食店に罰金を科すことではなく、コロナ治療のための集中的な拠点を作り、受け入れてくれる医療機関にしっかりと補償すること。この一点に尽きます」

感染者が差別される社会、その元凶は

 前出の唐木氏は、一連の法改正をこう牽制する。

「日本では病床を増やさず、感染すると恐ろしい、と扇動して国民をごまかしています。たしかに感染症に対しては、国民に恐怖を与えて自粛させる、という対策が歴史的にもとられてきました。しかし、これにはすごく大きな副作用があります。結核やハンセン病がそうですが、感染者は隔離され、大変な差別を受けました。恐怖を煽った結果、差別が生まれたのです。新型コロナも、すでにそうなって、感染した人が爪弾きにされている。コロナは怖いと煽って、国民に自粛させることしかできなかったポピュリズム的な政府、専門家、都道府県知事は、この副作用をどう反省するのでしょうか」

 国民に過度な恐怖を与えた元凶といえば、新型コロナが指定感染症第2類相当のままで、いまも改められないことだ。東京脳神経センター整形外科、脊椎外科部長の川口浩医師は、

「特措法や感染症法の改正より先に、やるべきことがあるはずです」

 と言って、続ける。

「政府は新型コロナ患者を受け入れる開業医や民間病院に、助成金を支払うと表明しました。ボールが医師会側に投げられたので、医師会は医療提供態勢を再構築するための条件や案を提示する必要があります。具体的には、指定感染症2類相当からの格下げを議論の俎上にのせることです。医師会は会員の開業医や民間の勤務医に、“新型コロナが2類相当から格下げされたら患者を受け入れるか”というアンケートをとるべきです。強い使命感をもった会員の先生は多いので、たとえばインフルエンザと同じ5類になれば、受け入れる医療機関は増えるはず。アンケート結果にもとづき、政府に“2類から格下げされれば、これだけのリソースが確保できる”というデータを示せるのです」

 現実には、医師会の言動はなかなか改まらない。

「“感染者数を減らすべきだ”としか言わず、自ら学術専門団体と名乗りながら、言動は科学的エビデンスにもとづいていません。これでは、コロナ対応は公的病院に任せ、自分たちのところに火の粉が降りかからないようにしている、と思われても仕方ありません」

 汚名を返上したければ、医師会が率先して2類相当からの格下げを、政府に働きかけることだろう。

「2類相当のままコロナ患者受け入れを強いられれば、中小医療機関までが、バイオテロさながらの過剰な患者対応を強制され、院内の動線もほかの医療活動も制限されてしまう。現場は疲弊し、志の高いスタッフも離職してしまう恐れがあります。一般の患者もコロナがエボラ出血熱並みに扱われていれば、受け入れている病院は避けるので、助成金では賄えないほど収益が減少してしまいます。一方、受け入れを拒めば病院名を公表され、このSNSの時代、恰好のターゲットになります。この悪循環こそが医師会の言う“医療壊滅”ではないでしょうか」

週刊新潮 2021年1月28日号掲載

特集「死神の正体見たり」より

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