「感染症法の改正」より優先すべきは? 民間病院の患者受け入れ、2類相当の引き下げ
コロナ患者を受け入れない民間病院
厚労省は、医療機関に新型コロナ患者の受け入れを勧告でき、応じなければ医療機関名を公表できる、という方向で感染症法の改正案をまとめた。が、そもそも今行うべきは病院への制裁なのだろうか。専門家の意見を聞いた。
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1都3県に発出された緊急事態宣言は、1月13日に大阪など7府県に拡大されたが、日本医師会の中川俊男会長は、全国への拡大を求めている。
当たり前の日常に大きな縛りをかける緊急事態宣言は、日常を支える経済、社会、文化の機能を奪い、大きな副作用をもたらす。倒産や失業、自殺者の増加は端的な例である。だから本誌(「週刊新潮」)は、それを出すことに一貫して反対してきた。
だが、中川会長は、日本の医療はすでに崩壊しており、このままでは「医療壊滅になる」と強調する。そうまで言われれば、緊急事態宣言も致し方ないと多くの人が思うだろう。たとえば、毎日新聞の世論調査では「政府の緊急事態宣言についてどう思いますか」という問いに、「妥当だ」と答えた人が18%、「遅すぎる」が71%で、合わせれば9割近くに達している。
それでも問いたい。日本における新型コロナウイルスの感染状況、そして医療の状況は、本当に国民が強い自粛を呼びかけられなければいけないほど、切羽詰まっているのか、と。
「病床が不足しているのは、大部分の病院が協力しないからです」
と、東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が訴える。
「特に民間病院の協力が足りません。日本医師会は開業医の利益団体なので、中川会長は新型コロナに触りたくないのでしょう。受け入れたばかりに病院関係者が感染し、周囲が濃厚接触者になったら、病院はすぐ閉鎖になるなどの理由です。現在、コロナ患者を受け入れている少数の病院はすごく苦労していて、医師仲間なら助け合うのが当たり前ですが知らんぷり。中川会長は“民間病院の役割は地域医療を守ることで、コロナにまで手が回らない”と言いますが、コロナ患者を受け入れない口実にすぎません。自分たちが協力しない理由を隠すために国民に自粛を求め、思い通りに自粛してくれないから医療崩壊だと訴えるのです。そのうえ“壊滅”ですか。壊滅の責任の一部は日本医師会のものです」
ここにきて、病床を提供しない病院が多いと責められると、中川会長は「大規模病院のコロナ病床をさらに拡大し、その病院の通常医療を中小規模の病院にお願いする仕組みを、地域ごとに作るのも有力な案」と発言した。進歩ではあるが、やはりコロナ患者は受け入れたくなく、この機に乗じて大規模病院の患者を分けてほしい、という姿勢があからさまではないか。事実、民間病院は、コロナが怖い人の受診控えで患者が減っているのだ。
民間病院が新型コロナ患者に冷たいことは、厚生労働省のデータからも明らかだ。受け入れ実績がある1444病院のうち、病院全体の約8割を占める民間病院は17%にすぎない。日本医師会が積極的に受け入れの方向に舵を切らないかぎり、人口当たりのベッド数はOECD加盟国でトップでも、小雨が降っただけで洪水になってしまう。
病院名公表、制裁の効果は?
そんななか厚労省は、医療機関に新型コロナ患者の受け入れを勧告でき、応じなければ医療機関名を公表できる、という方向で、感染症法の改正案をまとめた。だが、医師でもある東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授は、
「病院名公表が、制裁としてどれだけ効果を発揮するか未知数です」
と言って、続ける。
「実は現行の感染症法にも協力要請の条文がありますが、活用されていません。少なくとも、個別の医療機関への具体的要請は、なされていないと思います。行政は医療機関内部の運用を業界に任せきってきたため、患者はどの医療機関で受け入れ可能か、といった医療機関の内部情報を、全然把握できていないからです。その状況で新たな条文が加わっても、明らかに受け入れ能力があるのに協力を拒んでいるような、限られたケースでしか発動できないと思います」
先に触れた毎日新聞の世論調査では、新型コロナの感染拡大について、「行政の責任が重い」と答えた人が40%でトップだったが、その通りなのである。米村教授が提案する。
「医療側が自主的に協力を申し出られる場を作るべきで、地域に病院の協議会を設けるのがいい。“こういう人手が足りない”という各病院の要請を受け、医療機関同士で、人手や患者が均衡するように調整するのです。そのほうが解決は速い。また、コロナ患者で手がいっぱいの大病院が中小規模の民間病院に、“外科医は派遣するから手術を引き受けてもらえないか”と依頼できる仕組みがあれば、だいぶ違います」
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