「池脇千鶴」演じる“自己肯定感低め”四十路女のリアリティ 期待膨らむ「その女、ジルバ」
「この主役は〇〇が演じたほうがいいのになぁ」と思うことがある。多々というか、それはもう頻繁に。「よいドラマを作る」「作品への敬意」よりも、しがらみとか調整とか密約とか当番制が優先されるのが常。
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ちなみに〇〇に入る俳優で断トツは安田顕。とうのたったアイドル入れるくらいならヤスケンを、と思う作品がとにかく多い。女優については主演が完全に大手事務所の当番制なので、毎回〇〇を妄想するほどだ。数えきれないほどたくさんいるが、そのひとりが池脇千鶴。童顔に高めの甘い声だが、若くも賢くもない女のリアルをどろりと曝け出す姿は稀有の存在。さらり、と書きたいけれど、音にしたらどろり、が近いのよね。
そんな池脇を主演に迎えた東海テレビの良心と矜持。キャスティングのセンスも含め、1話しか観ていないが絶賛することにした。「その女、ジルバ」だ。このドラマの肝はリアリティ。綺麗なだけで芸のない半端な女優や元アイドルでは実感も達観も奥行も生まれない。
初回から息を呑んだ。地味な日常を淡々とやり過ごす四十女をここまでリアルに表現する女優はいないと思うほど、池脇の顔がむくんで疲れ果てていた(マジで体調を心配するくらい)。でも、あのむくんで化粧っけのない顔に、「あれは私だ」と思った女性はものすごく多いと思う。夜の電車の窓に映る顔。不意に写真を撮られた時の顔。無意識の素の顔。心折れて、でも、やけくそになるでもがむしゃらになるでもなく、現実をスッと受けいれた年頃の顔。この顔を見せられる女優って本当に少ないのよね。
池脇は福島から上京、大手百貨店に勤務するも、ワケあって物流倉庫に飛ばされ、40歳を迎えたという設定。ひょんなことから超熟女バー(勤務条件は40歳以上)で働き始めることに。
超熟女バーのママは、豹柄を品よくコケティッシュに着こなす草笛光子。渋いマスターはこの20年で逆に若返っていると思わせる品川徹だ。ふたりは戦争孤児で、初代ママ・ジルバと始めた店が「OLD JACK&ROSE」である。賑やかなホステス3人組(上品な草村礼子・可愛げの中田喜子・ムードメーカーの久本雅美)は「女は四十から」をモットーに、怯える池脇を温かく迎える。
実は職場でも池脇の味方が多くて、安心している。池脇と同様、物流倉庫に出向させられたのが真飛聖。出向組に対してつっけんどんな倉庫会社の江口のりこ。もうこのふたりなら信用できると勝手に思っちゃった。劇中でも、役者としても。
唯一、敵と思しき人物は池脇の不運の元凶で、元彼の山崎樹範だ。人当たりのよいクズ感たっぷりで、悪い人じゃなさそう。
自己肯定感の低い四十女が人生百戦錬磨の寛容なパイセンたちに今後何を教わるのか興味深い。「今の40歳は20歳に見える」と語る草笛、「それだけ世の中が平和なんだよ」と答えた品川。確かに世の中総じて幼い。この幼さに違和感を覚える人に、説教や昔話以外で溜飲を下げさせることができるかどうかが見ものだ。