「今際の国のアリス」が世界的にヒットした理由、「山﨑賢人」の世界的俳優への道
漫画作者の慧眼
しかし、コロナ禍に襲われた後は違う。
街から人が消え去るということが本当にあるのだと人々は実感した。
渋谷や銀座から人が消え、まさに「寂寞とした街」というのが本当にこんなに簡単に出現するのだという、肝が冷えるような思いがリアルに感じられたのだ。
渋谷スクランブル交差点といえば、だいぶ前から現代日本の象徴、あえて言えば「混沌と秩序」という、外国人が大好きな日本のイメージを象徴するものとして、インスタ映えする観光スポットになっていた。
伝統的な日本を象徴するのが富士山や京都であるとするならば、現代日本を象徴するのが渋谷駅前のスクランブル交差点で、いわば現代日本の「アイコン」だ。
コロナ禍以前、この交差点は人々で溢れかえり、嬉々としてスマホで自撮りしたり、ミラーレス一眼で動画撮影したりする外国人観光客が多く見受けられた。
あれだけ多くの人々が行き交うにもかかわらず、事故や喧嘩が起きないスクランブル交差点は魔法のように見えるらしい。
そのスクランブル交差点が無人となるシーンから始まる「今際の国のアリス」は、誰が見ても現代の日本を舞台とするドラマであり、コロナ禍の不条理性とシンクロして、「今のリアルさ」を映し出す作品になった。
それがこのドラマが世界で受け入れられた一つの理由ではないだろうか。
ちなみに、スクランブル交差点を物語の出発点に据えたのは、ひとえに原作である漫画の作者・麻生羽呂氏の慧眼というべきであろう。
週刊少年サンデーSで原作の連載が開始されたのは10年も前、2010年のことだ(2016年に連載終了)。
今回のNetflix実写版ドラマ(シーズン1)は原作漫画の前半くらいの内容をカバーしているが、すでに後半を扱うシーズン2の制作が決まっている(なお原作漫画のスピンオフとして『今際の路のアリス』(2015-2018年)、続編『今際の国のアリス RETRY』(2020年-連載中)があります)。
Netflixの強み
もう一つ重要なのは、世界同時視聴を可能にするプラットフォームがあったということだ。
動画配信サービスには、日本では他にAmazon Prime Video、Apple TV、Hulu、dTV等がある。
しかし、著作権処理や配信契約の関係で、日本で見られるコンテンツが海外でも同じように見られるとは限らない。
そうした中でNetflixは比較的多くのコンテンツを海外でも見られる、グローバルでのコンテンツ共有可能性が一番高い動画配信サービスとして知られている。
実際のところ、「今際の国のアリス」は配信地域に対応した各国語版の吹き替え音声と字幕が用意されている。
日本向けに公開されているバージョンでは英語とポルトガル語、字幕としては更に中国語、韓国語が追加されているが、例えば米国ではスペイン語の吹き替えやドイツ語の字幕等も用意されている。
さらにNetflixオリジナルコンテンツという点も大きい。
Netflixは近年、潤沢な資金を投入して世界中でコンテンツを作成している。
コンテンツ制作の大スポンサーになっているのだ。
ホワイトハウスの権力闘争を描いてヒットしたケヴィン・スペイシー主演の「ハウス・オブ・カード」(2013-2018年)はNetflixオリジナルコンテンツという訳ではないが、制作費用の一部として1億ドルを出資したのはNetflixだ。
最近では、北朝鮮に不時着した財閥令嬢を描いた「愛の不時着」(2019-2020年)など、良質のヒット作品が次々とNetflixで配信されている。
その上、いま売られているテレビの多くは、ネットに接続してNetflixのコンテンツを楽しむアプリがインストールされており、リモコンにはNetflix専用の「赤字のボタン」があらかじめ配置されているのが普通だ。
契約したアカウント情報があれば、ボタン一つで、世界どこでもNetflixのコンテンツが簡単に楽しめる――。
この便利さはスゴい。Netflixの会員数増大を支えているのはこうした環境の整備のおかげでもあるだろう。
そうした配信環境の整備からコンテンツの作成まで、今のNetflixが持つグローバルな競争力は圧倒的だ。さらに、コロナ禍での巣ごもりの生活に耐えている人々の「良質のコンテンツを楽しみたい」というニーズを、機会を逃さず掴むことに成功したのが、今回の決算発表で明らかになったNetflix絶好調の理由に違いない。
そして、そのNetflixが作り出した世界的ヒット作品の列に、日本発の作品として初めて加わったのが「今際の国のアリス」なのだ。
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