クリーンな水とエネルギーを世界へ――三野禎男(日立造船取締役社長兼COO)【佐藤優の頂上対決】

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コロナで進む遠隔操作

佐藤 事業の多くはプラント建設で大規模工事となりますが、今回のコロナ禍では、どのような影響が出ましたか。

三野 現地と頻繁にウェブ会議を開くようになりましたね。昨年3月以降は、現地にスーパーバイザー(現場監督)を派遣できない状態が続いています。そこで現地スタッフに「スマートグラス」というウェブカメラ搭載のゴーグルをつけてもらい、そこから送られる画像をこちらで見て、スーパーバイズしています。

佐藤 もともとスマートグラスを使っていたのですか。

三野 十数年前に一度取り組んだのですが、当時はまだカメラも大きく通信速度も遅かったので、中断していました。ところが今回のコロナで現地へ行けなくなったので、復活させた。いまは、カメラも小型化して高精度になっていますし、何より通信速度が速くなりました。まだまだ海外の地方だと動画のスムーズな送信などに課題はありますが、使えるレベルにはなっています。

佐藤 そうなると、今後、現場との関わり方が大きく変わっていきますね。

三野 やはり現地に行かないと感じられない匂いや雰囲気があって、ベテランの人としてはいろいろ思うところもあるようですが、熟練した人が一度にいろいろな工事を指導できるとか、現地からもそうした人がいつも近くにいてくれるようで心強いといった「いい反応」もあります。

佐藤 ベテランの方は具体的な現場を数多く見てきていますから、リモートでもかなり有機的、効率的に仕事を進められるのではないですか。また出張費やそこに使う時間も節約できます。これを機にこのやり方がどんどん定着していくでしょうね。

三野 他に選択肢がなくて行ったことですが、リモートでここまでやれるとわかりました。今後、コロナが落ち着いても、リモートのいいところは残し、リアルでやるべきところは見定めて、両者をうまく融合させ進化させていくことができればと思っています。

佐藤 ごみ焼却発電では、すでに遠隔監視、遠隔操作が進んでいますね。

三野 2001年から遠隔監視に取り組んでいます。遠隔監視しながら、ごみの量や炉内の温度など焼却炉のデータを集め、運転制御の高度化を図ってきました。2018年にはA・I/TECという先端情報技術センターを作って、当社が手掛けたさまざまな施設のデータを集約しています。

佐藤 先ほどのスマートグラスのデータも集まってくる。

三野 そうですね。ここには三つの目的があります。まず遠隔監視や遠隔操業ですね。将来はごみ焼却発電施設の無人化を目指しています。また、集めたデータから新たなものを開発する拠点にしたい。そして、当社だけではできることが限られていますので、大学や他社も含めた共創、協業の場としていきたいと考えています。

人材獲得に出前講義を

佐藤 三野さんは技術畑出身ですね。大学では何を専攻されたのですか。

三野 大学院の修士論文は、下水汚泥の分析です。ガスクロマトグラフィー(気体の分離・精製法)を使い、そこに現れる波形で汚泥の状況が分析できないかを研究していました。

佐藤 ご自身の専門分野に近いところでお仕事をされてきたわけですね。では会社の人材としては、どんな人が欲しいですか。

三野 弊社には「私たちは、技術と誠意で社会に役立つ価値を創造し、豊かな未来に貢献します」という理念があります。やはりそこに共感していただける方ですね。エネルギー、水、社会インフラを通じて社会に貢献したいという価値観のある人に来ていただきたい。具体的なスキルで言えば、数理情報系、デジタル系を学んだ方ですね。やはりAIやIoTについてはどんどん取り組んでいかねばなりません。そういったスキルをもって当社を志望する人は少ないんです。そのために大学で数理情報系の教授だった方を退官後に顧問としてお迎えし、社内で定期的に講座を開いています。また各事業部のデジタル化の相談にも乗っていただいています。

佐藤 私は、若い人材を得るには、難関高校で出前講義するといいのではないかと思っています。母校の浦和高校で特別授業を持っていたことがあるのですが、高校生には社会の一線で働いている人と出会う機会がなかなかないんですね。その時期に、実際に最前線で仕事をしている人からこんな面白い仕事があるのだと教えられれば、6、7年後に就職する際、選択肢になると思います。

三野 出前講義は時々やっていますが、あまり戦略的には考えていませんでした。確かに人材獲得を考えながらやったほうがいいですね。

佐藤 海外で働きたいという若者も大勢います。海外従業員はどのくらいですか。

三野 従業員はグループ全体で1万人をちょっと超えたくらいですが、海外従業員は千人近くいると思います。出前講座といえば、有志が2013年からラオスの小学生に環境教育をしています。現地の言葉で絵本を作ったり、授業をしたりして、環境問題やリサイクルの大切さを教えている。これは将来、ごみ焼却発電や環境関連の事業を進めることにもつながっていくと思います。

佐藤 どうしてラオスなのですか。

三野 ベトナムやタイ、マレーシアだと、ある程度、環境問題の大切さは共有されています。ラオスは人口が少なく市場規模としては小さいかもしれませんが、これから開発が進んでいく国です。

佐藤 周辺の国々とともに伸びてくる可能性はありますね。私は、アフリカにも注目しているんです。水にしてもごみにしても全く手つかずで、そこへこれから大量消費文明が入ってきますから、非常に大きなビジネスチャンスが生まれます。だから商社やメーカー志望の学生がいると、フランス語をやれと勧めています。日本が一番遅れているのは、フランス語圏のアフリカです。

三野 北アフリカや西アフリカですか。

佐藤 特に西アフリカですね。レアメタルや資源は豊富にあるのに、フランス語圏だから入りにくい。

三野 いまイノバ社の社長はフランス人なんですよ。

佐藤 それはいいですね。スイスの会社だと、フランス語やドイツ語、さらにイタリア語にも対応できますし、英語も事実上公用語です。

三野 示唆に富んだお話で、たいへん参考になります。水やエネルギーは人が生きていくには不可欠なものです。私どもは「地球と人のための技術」を標榜しておりますから、日本で培った技術を必要とする人たちがいれば、どんどんそこへ出ていきたいと思っています。

三野禎男(みのさだお) 日立造船取締役社長兼COO
1957年香川県生まれ。京都大学工学部卒。同大学院衛生工学修士課程修了。82年日立造船入社。ごみ焼却施設の排水処理、集塵灰処理などに携わり、2010年にエンジニアリング本部環境・ソリューション事業部環境EPCビジネスユニット長。13年常務執行役員、15年常務取締役、17年取締役副社長を経て、20年4月より現職。

週刊新潮 2021年1月21日号掲載

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