岡田将生と志尊淳による“BLホラー” 『さんかく窓の外側は夜』は意外な良作
現在公開中『さんかく窓の外側は夜』★★★★☆(星4つ)
ひと昔前、新宿・歌舞伎の広場の真ん中に立ち辺りを見回すと、新宿プラザ、ジョイシネマ、ミラノ座といった映画館の看板が誘いかけてきたものである。(それぞれ2008年、09年、14年に閉館)。新宿トーア(こちらは09年に閉館)に視線を移すと『スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ』(2006)の看板の中で、セーラー服姿の松浦亜弥が桜の代紋が入ったヨーヨーを構え“おまんら、許さんぜよ!”とすごんでいた。
「あやや、麻宮サキになったんだ。監督は深作健太……う~む」などと言いながら、さして期待もせずにチケットを買い、映画館の闇に滑り込んでいく――そして何の気なしに見た映画が、意外な拾い物だったりしたのだ。
2000年前後はそんなふうに、邦画を、特にホラーを見てきた。98年の『リング』『らせん』、99年の中村麻美・菅野美穂『富江』、00年の水野美紀・黒木瞳『千里眼』、深田恭子『死者の学園祭』、01年は天海祐希『狗神 INUGAMI』、奥菜恵の『弟切草 OTOGIRISO』、野波麻帆と柴咲コウの『案山子 KAKASHI』、などなど。その頃Jホラーはアイドルが女優に“変貌する”ための舞台だったのだ。
こうした作品を都内の繁華街や地方都市の駅前にあったくたびれた映画館で、まばらな客と一緒に見たことを、よく覚えている。『さんかく窓の外側は夜』を見て、そんな記憶がよみがえった。コロナ禍の非常識を承知でいえば、本作もまた、街の映画館で見たい映画である。
愛すべき能力者たち
霊が“視(み)える”。三角康介(志尊淳)には生まれつき、そんな能力が備わっていた。しかし霊の存在に慣れることなく怯えている三角の前に、ひとりの男がやってくる。冷川理人(岡田将生)と名乗るその男は、霊を“祓(はら)う”、つまり除霊を仕事にしているという。「君はまさに、僕の運命だ」。冷川は三角に訊(たず)ねる。「僕の助手になってくれませんか?」
原作はヤマシタトモコによる、同名のBL漫画。だから恋愛であり友情でもあるような感情が、ふわっと匂う。
旧知の刑事・半澤(滝藤賢一)の依頼で、冷川はある未解決の連続殺人事件の追っていた。やがて捜査線上にひとりの女子高生が浮かび上がる。非浦英莉可(平手友梨奈)、彼女は“呪いを操(あやつ)る”能力を持っていたのだ――本作は異能者の三角関係を描く物語なのだ。そしてこの三角形は、あの世がこの世に雪崩れ込まないよう冷川が張る結界のかたちでもある。
『ギフト』(00年、監督 サム・ライミ)のケイト・ブランシェット、『降霊 KOUREI』(99年、監督 黒沢清)の風吹ジュンといった霊能力者、あるいは『アンブレイカブル』(00年、監督M・ナイト・シャマラン)の“不滅の肉体を持つ男”ブルース・ウィリス、『デッドゾーン』(83年、監督 デヴィッド・クローネンバーグ)の“予知能力者”クリストファー・ウォーケン……くり返し映画の中で描かれてきた異能者たちの列に、彼らは連なる存在といえる。
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