緊急事態宣言は「発出?」「発令?」それとも「出す?」 それぞれに深い意味がある
主要紙で「発令」を使っていないのは「朝日」だけ
そんな“思惑”で、我々は聞き慣れない言葉を押し付けられてはいるのだが、間に立つ地方自治体とメディアは、決して“右へならえ”ではない。意外なことに地方自治体の多くが「発令」を使っている。
「小池百合子東京都知事も、普通に会見で『発令』と喋っています。特別意識しているわけでもなさそうですが、都民にわかりやすい言葉として使っているのでしょう」(都庁担当記者)
メディアも同様だ。1月8日の朝刊各紙を並べてみると、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、すべて「発令」だ。
「昨年、1回目が出た時に議論になった記憶があります。『発出』って言葉は読者に対して不親切な言葉だろうと。政府が『発出』にこだわり続けたい意図もわかるが、実質的に法令に基づいて出されているものだから『発令』で構わないだろうという話になりました」(毎日新聞・記者)
ちなみに新潮社も同様の考えで「発令」を使っている。一方、主要紙の中で、頑なに「発令」を使わず独自路線を貫いているのが朝日新聞だ。8日は一面で、
〈菅義偉首相は7日、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言を東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏4都県に出した〉
社説でも、
〈首相がきのう、新型コロナ対応の特別措置法に基づき、昨年4月以来2度目の緊急事態を宣言した〉
「出す」や「宣言した」という表現を用い、あえて「発出」「発令」を避けているのだ。そのココロはというと、
「ウチだから歴史観が絡んでいるんじゃないかとか、うがった見方をされそうですが、そんな話ではありません。『発出』を使わない理由は、みなさん同様に聞き慣れない言葉だから。ではなぜ『発令』でないのかというと、本当に実態として宣言は“要請”で“命令”ではないからです。議論を経て、あえて両語を使わない表現で統一しようという話になりました。だから、いま審議されている特措法改正に罰則規定が加わり、宣言に強制力が伴うことになれば、『発令』を使うことになるんじゃないですかね」(朝日新聞・記者)
NHKは「発出」を使っているが……
さすがは「ジャーナリズム宣言」を掲げる朝日。言葉一つ使うにも深慮があるようだ。そんな中、何のためらいもなく「発出」を使っているメディアがNHK。
〈東京 埼玉 千葉 神奈川 政府に「緊急事態宣言」発出を要請へ〉(1月2日)
〈緊急事態宣言の発出を7日に決定の方針 1都3県対象 菅首相〉(1月5日)
ネットに転載されたNHKの記事には、タイトルだけでなく本文中にも、「発出」が溢れかえっている。現場の記者に聞いてみると、
「あ、そうなんですか。それは気づきませんでした。というのも、我々記者が原稿を書く時は、『出す』とか『行う』などの表現にしていますので。そもそもNHKの記者は、日頃から平易な言葉を使うよう教育を受けているので、反射的に『発令』も『発出』も使いたがらないのです。実際、テレビで原稿が読まれる時はそうなっていると思います」
では、なぜネットは「発出」が散見されるのかというと、
「よくわかりませんね……。ネット用にニュース原稿を編集する制作部が、考えずに変えているのかもしれません。用語統一しようみたいな、きっちりした議論を耳にした記憶がありませんし……。ただ、ウチの場合、政府が『発出』と言っているのに『発令』に言い換えるなんてことは、体質的にありえないでしょうね。右からも左からも“何で言い換えるんだ”って、ケチつけられそうじゃないですか。ウチはそういうのを非常に気にする組織なので」(同)
と、「緊急事態宣言」を「○○する」の使い方は、三者三様なのだが、確かに前出の朝日記者が言っていたように、特措法改正案が成立したら、「発令」で揃いそうな気がしなくもない。それでも菅首相は、おためごかしの「発出」にこだわるのだろうか。
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