肺がんで余命2年と宣告された医師の告白 「コロナは5類に。報道には虚しさを感じる」

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自らの葬儀の挨拶を事前録画

 昨年8月に『がんになった緩和ケア医が語る「残り2年」の生き方、考え方』(宝島社)を出版した後、講演依頼や取材が殺到する。

「これが私の脳のMRI写真です。がんが小脳や脳幹などに転移しています」。昨年11月に三宮で開かれた講演会では冒頭、脳の一部が黒ずんだ断層写真がスクリーンに映された。宣告を受けてから一年でやったことなどを紹介した。

「私の葬儀で妻に挨拶させるのは忍びない」と自ら参列者にお礼を述べる様子を録画撮りした映像を用意していることや子供たちのために残した映像や音声もあることを明かした。

 関本さんはクリスチャンだが、がんと知られて以来、得体の知れない民間療法や宗教団体などの勧誘で迷惑しているとか。「インチキでも、あれだけの熱量をもって勧めてこられれば、医療者じゃない方は何かに入れ込んでしまうかもしれません」と心配する。愉快な語りは悲壮さを感じさせない。

 神戸市生まれの関本剛さんは中高一貫教育の六甲学院に進んだ。高校ではブラスバンド部でトロンボーンを吹いていた。1995年1月、受験の直前に阪神・淡路大震災が起きた。「自宅で寝ていましたが別の所に住んで歯科大学に通っていた姉ともども家族は無事でした。神父さんの指導でブルーシートを屋根に張るなどのボランティア活動をしました」。

 関西医科大に進み卒業後は内科研修の後に消化器肝臓内科を専攻。大学院で博士号も取得し、その後数年同大学付属病院で消化器内科医として勤務した後、六甲病院の緩和ケア内科で3年間勤務し、現在に至る。

気がかりな人格の変化

 今の所、抗がん剤投与後2、3日間身体がしんどくなること以外、目立った変調はないが、何よりも気がかりなのは脳に転移していることだ。

「加害者になりかねないので車の運転を控えています」と在宅緩和ケアではスタッフに訪問先まで送ってもらう。「認知症の悪いケースのようにがんが脳に悪さをして人格が攻撃的になるなど変わってしまうこともあります。人に迷惑がかからないような変わりようならいいのですが」と話す。医療従事者の苦労を熟知するだけに入院時には気を使った。「ナースコールは点滴トラブルのブザーが鳴り続けていた時以外は押したことはありません。個室とはいえ、シャワーを浴びるタイミングや用を足すタイミングに気を配りました」。

 積極的治療を断念せざるを得ない患者と向き合う緩和ケア医師には最新機器を用いた精査や治療、抗がん剤など「振りかざす武器」がない。

「今から思えば、消化器内科医の頃は内視鏡の検査や治療、抗がん剤投与など『振りかざせる武器』を振り回しながら、時間のあるときに患者さんの話を聞いて、痛みに対して麻薬を使って、緩和ケアができているつもりでした。しかし緩和ケア病棟ではそれまでふりまわしてきた武器を使えない患者さんばかり。患者さんの『人生の花道を飾る』には、患者さんと真正面から向き合う覚悟はもちろんのこと、膨大な専門的知識と哲学、人間力が必要であり、初心に立ち返って真摯に勉強しなおさなければならないと思い知りました」

 対話力、人間観察力が問われる。大学で消化器内科を専攻したのもがんの勉強ができるからだったが、「人の死」を見つめる緩和ケア医を選んだ理由には忘れられない体験が影響している。

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