事故物件専門の「成仏不動産」 広がる利用者、幽霊を見た入居者は?

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 自殺や事件があった住宅、いわゆる事故物件の売買や賃貸を専門に扱ったサイトがある。その名も「成仏不動産」。運営するのは不動産会社「MARKS」(横浜市)だ。同社の花原浩二社長が経緯を語るには、

「大学を出て大和ハウス工業に入社し、営業マンとして働きました。そのとき、新築は売れているのに空き家は増えていて、今後は造るだけではダメだという問題意識を持ったんです」

 2016年にMARKSを設立したそうで、

「たまたま事故物件の買い取りの相談があった際、物件のオーナーに責任はないのに売値が下がるのは理不尽だと感じました。事故物件だけのまっとうな市場があれば、そんな風潮も変わる。堂々と情報を明かせば、事故云々も平気だという人からの反応もあるだろうし、価格形成も適正化すると考えたんです」(同)

 社員には「横浜でお洒落な住宅を扱ってきた会社のブランドが壊れる」と反対もされたが、決断は変わらず。19年4月に「成仏不動産」を立ち上げた。が、情報収集は簡単ではなかった。

「事故物件の情報は、小さく“要事項”と出ている程度なんです。そこで業者専用のサイト『レインズ』などで一件一件“要事項”を探しては電話で内容を尋ね、『人が亡くなった』と聞けば、『当社のサイトで掲載させてください』とお願いする作業を続けました」

 電話口で「お宅に仲介を任せたら、うちに手数料が入らなくなる」と断られることも多かった。そこで20年4月から「マーケット作り」を優先し、手数料ナシ=会社の利益ゼロで他の業者の情報を掲載。今では常時200件ほどの物件が検索可能に。派生ビジネスとして清掃やお祓いも手がける。

 サイトに掲載されている物件は、殺人があったものが約1割、残りの半分が孤独死のあったもの、あと半分が自殺のあったものだという。他には病死のあった物件、墓や火葬場、葬儀場に面した物件などがある。

「殺人物件は周辺相場よりも5割安くなります。自殺物件で2~3割。孤独死の場合、発見まで72時間未満の場合は1割未満ですが、72時間以上経った物件は遺体の損傷が酷い場合もあるので1~2割は安くなる」

 サイト公開から昨年9月までの成約数は32件。どんな人が買い、借りるのか。

「賃貸で言えばオーナーから忌避されがちな80歳以上の単身の高齢者や外国人、あるいは安ければいいという若年層が主でした。しかし最近では男女、年齢問わずさまざまな人たちに広がっています。事故物件だろうが、気にしない人は気にしない。その人にとって物件がよく、条件が合えば成約します」

 入居者でこれまでお化けを見たという人は「一人もいない」そうである。

週刊新潮 2021年1月21日号掲載

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