五輪を過度に神聖視するバカな日本人(中川淳一郎)

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 東京オリンピック・パラリンピックの開催まであと半年ほどに迫っていますが、本当に開催できるんですかねぇ? 2020年7月24日の開幕を1年間延期したのは昨年3月末のこと。あれから1年経って世界のコロナ感染状況は悪化しているわけですよ。「ワクチンがあるから大丈夫!」って言うけど、全世界に行き渡るのは2021年中には無理じゃないですか?

 そういった観点から今回は五輪について考えていきたいのですが、私は日本は「五輪メダリスト様偏重主義」の国だと思っています。何しろ、故・ナンシー関さんは、谷亮子(旧姓・田村)選手が金メダルを取った後のエッセイで、谷さんが選挙に出るのではと予言し、それが見事に当たったのですから。なんで柔道選手が国会議員様になるの?とギョーテンしました、あの時は。

 とはいっても、SPEEDメンバーだった今井絵理子氏が議員になったりするワケで、まぁ、「有名人は国会議員になれる」というバカ過ぎる状況は理解できます。そんな中、五輪金メダリストはバカ有権者にとっては最高の権威で、投票しなくてはならない存在なのでしょうね。本来、運動能力が高い人と政治能力が高い人は別なのですが。

 五輪の金メダリストについては、とにかく別格扱いしなくてはならない、といった考えが日本には蔓延しています。08年の北京五輪で金メダルを取った柔道の内柴正人氏が準強姦事件で逮捕された時は、さすがに金メダリストとはいえ、叩かれました。えぇ、当たり前です。

 しかし、とにかく金メダリストに対して日本社会には「へへぇ~、ありがたや~」的価値観が蔓延し過ぎている。どうも日本は五輪を過度に神聖化しているような気がするんですよね。私は中高はアメリカにいて、1988年のソウル五輪はアメリカで見ましたが、正直五輪よりもMLBの方が盛り上がっているように感じられました。

 92年のバルセロナ五輪の時はアメリカでも盛り上がっていましたが、それはあくまでもバスケのNBAのスーパースターであるマジック・ジョンソン、ラリー・バード、マイケル・ジョーダンが「ドリームチーム」として出場したからだったかも、と思いました。

 結果的にバスケでは、ドリームチームが対戦した国すべてを完膚なきまでに叩きのめし、アメリカ人としては溜飲が大いに下がりました。この時、アメリカがNBAのスター選手を派遣した理由については、「五輪がエラソーにする風潮、いい加減にせー!」というものがあったのでは、と今となっては思うのですよ。

 何しろ、アメリカという国は常に「自国ファースト」です。そんな国は、五輪が世界平等を訴え、アメリカであってもワンオブゼムになる状況について異議申し立てをしたいのでは。「あのな、アメリカ様こそすげーんだからな。そこ、誤解しないでね?」という意図をもってドリームチームを派遣したのでは。

 あの時のアメリカ代表の容赦のない勝ちっぷりは、当時の湾岸戦争で大勝利したマッチョな父ブッシュ政権の威厳をさらに高める結果を期待していたのだろうと今、考える次第です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年1月21日号掲載

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