菅総理と自民党との間で軋轢、官邸も機能不全に 「ポスト菅」候補は

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“初の女性総理”の可能性はあるのか

 日本列島に寒波が押し寄せるなか、永田町では「菅おろし」が猛威を振るい始めた。再びの緊急事態宣言に支持率の急落、党との軋轢、そして、官邸内に響く不協和音――。コロナ禍との戦いに劣勢を強いられる一方、菅義偉総理は政治家としての瀬戸際を迎えている。

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 政治家にとって言葉は“命”に他ならない。

 無論、いまの総理に求められるのは、苦境に立つ国民に寄り添い、希望への道筋を示す言葉だろう。

 だが、もともと口下手で知られる菅総理の言葉は、いつまで経っても精彩を欠くと言わざるを得ない。

 たとえば、1月7日に開かれた2度目の「緊急事態宣言」発令を表明する会見。菅総理は手元のメモに目を落とし、台本を読み上げるような口調に終始した。

 波紋を呼んだのは結びの言葉である。

〈これまでの国民の皆さんの御協力に感謝申し上げるとともに、いま一度、御協力賜りますことをお願いして、私からの挨拶とさせていただきます〉

 政治部デスクが嘆息する。

「ただでさえ苦境に喘ぐ国民で溢れるなか、改めて緊急事態宣言への協力を仰いだわけです。それなのに、結婚式に招かれた来賓のスピーチのような言葉で結んでは話になりませんよ」

 ハリウッド大学院大学教授(パフォーマンス学)の佐藤綾子氏も苦言を呈す。

「菅総理の発言には“私は”や“私が”といった自分を主語にする表現が極端に少ないので、会見を聞いても主体性に欠ける印象ばかりが残ってしまう。責任逃れのイメージを払拭するためにも“私”という主語を取り入れるべきです」

 ドイツのメルケル首相は昨年12月に“今年が祖父母と過ごす最後のクリスマスになってはならない”と情に訴えかけた。また、ニュージーランドのアーダーン首相は“強く、優しくあれ”と命令調で感情を込めて締めくくることが多い。

「自分を主語にして責任の所在をはっきりさせ、情に訴えたり、命令する。菅総理の場合、スピーチにとって重要なこうした要素が抜け落ちているため、国民の心を掴むことができないのです。少なくとも、メモを読み上げるのではなく、カメラに視線を向けながら話をしてもらいたい。総理大臣と国民のコミュニケーションは会見動画を通じて行われるのですから。一方で、杓子定規なやり取りを回避するため、総理の発言に賛同するにせよ、反対するにせよ、質問する記者もきちんとリアクションを示した方がいいと思います」(同)

 かつての自民党には言葉の力で人心を掌握する政治家が少なくなかった。代表格は、やはり田中角栄元総理であろう。44歳で大蔵大臣に就任した際のスピーチは象徴的だ。最終学歴が高等小学校卒の角栄は、日本を代表するエリート官僚を前にこう言い放った。

〈できることはやる。できないことはやらない。しかし、すべての責任はこの田中角栄が負う。以上!〉

 これを聞いた大蔵官僚が奮い立ったことは想像に難くない。昭和の今太閤と比べると、令和の宰相の言葉は霞んで見える。

 同時に、人心掌握の面でも見劣りする現下の総理に対しては、すでに“菅おろし”の突風が吹き荒れ始めているのだ。

支持率30%割れも

 共同通信が1月9日、10日に実施した世論調査では、菅内閣の支持率は41%。社によっては7割超の数字を叩き出した発足当初と比べれば、その落差は歴然としている。2度目の緊急事態宣言が「遅すぎた」という意見は79・2%を占め、さらに、菅内閣を「支持しない」と回答した人の4割以上が「首相に指導力がない」ことを理由に挙げた。

「国内でも1日の感染者が2千人を超え、GoToキャンぺーンに厳しい目が向けられ始めたことが大きかった。世論や分科会の提言に押し切られる格好で、GoToの一時停止を表明したのが12月14日。菅総理はその晩、二階幹事長に呼ばれ、みのもんた氏らと8人でステーキ会食に臨んでしまった。あの日を境に潮目が変わった印象です。安倍前総理の場合は支持率の30%近くを保守の岩盤支持層が固めていましたが、菅総理にはそれがない。このまま30%台を割り込む可能性も十分に考えられる」(先のデスク)

 菅総理に近い自民党議員はこう漏らす。

「このところ、菅さんは周囲の意見を全く聞き入れない。以前から頑固なところはあって、官房長官時代は“ブレない”“強気を崩さない”といった評価に繋がっていた。しかし、最近の令和おじさんはただの頑固おじさんのようになっている。そのせいで党との間にも溝が生まれてしまった」

 菅総理と自民党の足並みの乱れを表すエピソードとして、この議員が指摘するのは、昨年末に閣議決定された後期高齢者の「医療費2割負担」を巡る騒動である。菅総理は12月上旬に“年収170万円以上”の高齢者を対象にする方針を打ち出したが、

「この方針のままいけば、対象は520万人にのぼる。党内からは“衆院は全465議席。2割負担になる対象者が自民党離れを起こせば、議員ひとりにつき1万票以上減らすことになる。総選挙が近いことを忘れたのか”という声も上がった。森山裕国対委員長や、連立を組む公明党が先送りを進言したものの、菅さんは頑として方針を撤回しない。結局、公明の山口那津男代表と菅さんのトップ会談で“年収200万円以上”まで条件を緩和することで落ち着きましたが、党内には依然として菅さんに対するしこりが残っています」(同)

 長年、菅総理を取材する政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏によれば、

「菅総理は官房長官時代から“やる”と決めたことについては周囲に相談せずに断行するタイプでした。危機管理の観点から情報が漏れることを嫌うのでしょうが、コロナ禍における総理の対応としては問題がある。最近では、加藤官房長官や西村経済再生相ともコミュニケーションが悪化していると耳にします」

“安倍政治の継承”を掲げる菅総理にすれば、官邸主導を崩したくないという思いもあるのだろう。だが、最大派閥・細田派をバックに持つ安倍前総理に対し、菅総理は無派閥。さらに、官邸の陣容にも不安が残る。

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