「中村七之助」と「永山瑛太」のBL的交流を描く「ライジング若冲」 脇役の石橋蓮司の演技もよし

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 絵師・伊藤若冲の絵は死ぬまでに一度実物を観たほうがいい。2000年から若冲ブームが巻き起こり、私も千葉や福島の美術館まで観に行ったことがある。「芸術新潮」や女性誌の「和樂」で特集が組まれれば、アホみたいに買い漁った。でも実物にはかなわない。「江戸時代に4K、いや8Kかよ!」と目かっぴらいて息を呑むこと間違いなし。たかが鶏なのに、羽の光沢、黒の深みと多彩さ、今にもトサカをプルプル震わせて動き出しそうな躍動感!

 アメリカ人の若冲オタクでコレクターのジョー・プライス氏が所蔵品を貸してくれたりしてね。見向きもせずにうっちゃってた傑作が、外国で評価されて価値急上昇。まあ、日本人の目は節穴と痛感。絵師より武士が好きだものね、日本人。

 その若冲が主人公のドラマ「ライジング若冲」(NHK・2日放送)を見逃すはずもない。自画像を観る限り、若冲のイメージは坊主頭で上品に若返らせた勝新太郎。顔も体も細くてなまめかしい中村七之助が演じると聞き、「む?」と思っていたが、逆によかった。

 京都・錦市場の青物問屋の長男だが、弟に託して、絵師の道を進んだ若冲。その才能を見出したのが、相国寺のエリート僧侶で、漢詩人でもある大典(永山瑛太)。このふたりの交流を主軸に描くのだが、完全にBL。若冲は生涯独身だったし、女嫌いという説もあるし、大典がパトロンで生涯の友という点を真面目に描くならば、そうなるよね。

 となれば、七之助は適役。昨年の夏は確か女の幽霊に憑(と)りつかれていたが(怪談牡丹燈籠異聞)、女性に興味がない若冲がしっくり。若冲の代表作でもある「動植綵絵(さいえ)」を巡る心の交流を、鮮やかに清らかに肉付けした物語に仕上がっていた。

 で、このふたりを結び付けたのは高遊外。神出鬼没でいわゆる移動カフェを営むので「売茶翁」と呼ばれていたが、知識人で若冲の名を授けた人でもある。やさぐれ仙人のような風貌の石橋蓮司が実に飄々と演じていて、膝を打った。ドラマの後の豆知識解説も蓮司が担当し、落ち着いたしわがれ声が耳に心地よかった。

 もちろん若冲と大典がイチャコラするだけでは終わらせず、絵師の生き様も描く。

 若冲をやたらライバル視するのが、中川大志演じる円山応挙。円山派一門を作ったくらいだから人望厚く、ビジネスにたけていたと思わせる。中川は若冲に嫉妬し、打ちのめされ落ち込み、悔し泣きした後、歓喜に狂うなど劇中最も感情が乱高下する役。小賢しさが可愛らしい愛されキャラを好演。

 もうひとりは、旅や登山を好んだ天才絵師・池大雅。大東駿介が豪快で野性的に演じた。アホな役が秀逸な大東だが、今回は知的ワイルド。若冲・応挙と並んで趣の異なる天才絵師三羽烏、という描き方が面白かった。

 戦や家督争いのある武士は物語に緩急がつく。家で背を丸めて絵を描く絵師は、確かにドラマになりにくい。でもその覚悟や矜持、精神世界を映し出せたら、それこそ後世に残る深い作品になる。次は、河鍋暁斎を森山未來主演でお願いします。

週刊新潮 2021年1月21日号掲載

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