博多でトランプを支援する「Jアノン」 デモ密着で見えた正体

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サンクチュアリ以外の参加者もいる

 ならば、福岡をはじめ日本国内各地でおこなわれている、「トランプ米大統領再選支持集会・デモ実行委員会」系のデモは、すべて日本サンクチュアリ協会が信者を動員しておこなっている運動なのだろうか? どうやら、それも違うようである。藤倉氏は言う。

「日本サンクチュアリ協会はさほど大きい組織ではありません。福岡のデモに参加した250人以上の人たちの大半が信者ということは、考えにくい気がします」

 事実、私がデモ現場を眺めたときも同様の印象を持った。参加者のなかには新宗教団体から動員されたらしき人もいるが、いっぽうでデモに対して主体性を持って参加しているように見える人も少なからずいたからだ。親米保守やネット右翼的なイデオロギーを持つ人が、個人で参加しているケースは充分にありそうに見えた。

 そもそも、本来は中国ルポライターであるはずの私が、わざわざ福岡に飛んでトランプ支援デモを追いかけていた理由も、一連のデモにどうやら、統一教会系の諸組織や幸福の科学といったベーシックな反共イデオロギーを持つ新宗教団体以外に、中華系らしき政治勢力が加わっているケースがあるという噂を聞いたためである。

 事実、11月29日に都内でおこなわれたトランプ応援デモを取材した藤倉氏の証言によれば、このときはかなり(反中国共産党的な)中華色が感じられたらしい。日程や場所によって中華系参加者の比率が変わるのは、彼らが必ずしも「運営側」にいないことを示していると考えていいが、それでも興味深い現象だ。

 すなわち、中国公安部から「邪教」認定を受けた疑似宗教団体で反共イデオロギーを掲げる気功集団「法輪功」や、中国共産党と対立してニューヨークに亡命中の元政商・郭文貴が2020年6月4日に提唱したサイバー反共国家「新中国連邦」のメンバーやシンパの参加が見られたようなのである。

(なお、法輪功と新中国連邦はいずれもちょっとアクの強い人たちであり、それぞれに傘下メディアを通じて新型コロナ関連のフェイクニュースを流した前例もあるので、個人的には中華版陰謀論者の「Cアノン」と呼びたいところだ。)

鬼滅好きの中国人女性YouTuberを発見!

 福岡デモでは、残念ながら法輪功や新中国連邦の組織的な参加は確認できず、中国ルポライターとしての立場からすれば、やや空振り感があった。

 だが、デモ後に最寄りの地下鉄駅で張り込んで参加者たちをチェックしていたところ、なんと東京から午前の飛行機でやって来て、夕方の飛行機でまた帰京する(=今回のデモのためだけに福岡まで日帰り往復する)という、気合の入った中国人女性の参加者を捕まえることができた。

「Make America great again」の赤い野球帽にシナモロールのぬいぐるみをくっつけていた彼女は、30代の在日中国人のYouTuberだ。チャンネルを見せてもらうと『鬼滅の刃』の禰豆子のコスプレ動画と複数回のトランプ支援デモ参加動画が投稿されていた。

 彼女は個人の判断でデモに参加しており、「Cアノン」系組織には好意的ではあるものの無関係。日本サンクチュアリ協会については存在すら知らないようだった。ちなみに、中国共産党を嫌悪する反体制派中国人の一部から、トランプは強く支持されている。

「バイデンが票を盗んでいるのに、FBIもCIAも故意に無視している。このままではディープ・ステートがアメリカを共産主義国家に変えてしまうでしょう。これは中国とまったく同じ。もしもアメリカまで中国共産党の浸透を受けてしまえば、私たち中国人はもはや永遠に中国共産党の統治のくびきを脱することができなくなってしまいます」

 彼女はもともと政治に関心が薄いタイプだったそうだが、「武漢肺炎」(=新型コロナウイルスの反体制派中国人の間での呼称)の流行を契機に目覚めてしまったらしい。ディープ・ステートの存在についても「陰謀論」だとは考えておらず、「真実」であると堅く信じている。

「こうした活動は非常に重要。立ち上がらなくてはならないと考えて、個人の立場で参加している中国人や香港人は他にもいますよ」

混ぜるな危険!

 日本における「トランプ米大統領再選支持集会・デモ実行委員会」系のデモそれ自体は、反共保守的なイデオロギーを持つ統一教会系の新宗教団体がお膳立てをおこなっている可能性が非常に高い。

 ただ、そこに在野のネット右翼や反体制派の中国人、さらに「Cアノン」諸組織といった雑多な人たちも大量に合流もしくは便乗しており、結果的に非常にカオスなムーブメントが作り出されている。

 アメリカのQアノンに負けず劣らず、本邦の「Jアノン」もかなり不思議な集団だと言えよう。

安田峰俊
1982年、滋賀県生まれ。中国ルポライター。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)が第五回城山三郎賞、第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に2021年2月6日刊の『現代中国の秘密結社』(中公新書ラクレ)、3月3日刊の『「低度」外国人材』(KADIOKAWA)を控えている。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月19日掲載

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