「氷川きよし」の衣装問題、「五木ひろし」の“卒業” 「紅白歌合戦」知られざる舞台裏
コロナ禍で自由が制限された昨年を締めくくったのは、ソーシャルディスタンスが徹底された紅白歌合戦。敷かれた情報統制、我を通そうとする大物歌手。それでも届いた高視聴率の福音。大晦日の夜、舞台裏で視聴者には窺い知れぬ悲喜劇が繰り広げられていた。
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史上初の無観客となった紅白歌合戦の関東地区平均視聴率は第2部で40・3%を記録。コロナ禍による影響もあって、2019年から3%アップし、40%を超える大台を回復した。
「今回は歌を楽しめたという人が多かったのではないでしょうか」
とは芸能ジャーナリストの佐々木博之氏。
「例年の出演者によるコントや応援合戦などの歌以外の演出が少なかった分、歌番組としての面白さが際立っていました」
異例だったのはテレビに映る「表舞台」だけではなかった。
芸能記者が解説する。
「いつもなら、大晦日の前々日のリハーサルからNHKホールは200人近い取材陣でごった返します。しかし、今回は取材を大幅制限しました。出入りが許されたのは一般紙とスポーツ紙のみで、複数の記者がアーティストを囲む取材も代表記者1名が質問をし、他社の記者は別室でモニターを見るというスタイルになりました」
質問者が1人なのでNHKサイドからの「情報統制」は徹底され、
「JUJUには番組で共演していた三浦春馬についての質問がNG。初出場NiziUのリマには父で不倫報道もあったラッパーのZeebraにまつわる質問はダメとのことでした」(同)
一方で、あけすけに語る者もいた。例えば、初出場の瑛人。12月29日、記者からの取材時に、
「アトピーが悪化してしまって」
優れない自身の体調をそう明かし、歌詞にある「ドルチェ&ガッバーナ」というブランド名をNHKで歌えるのかという記者からの問いかけにも、
「事務所の人から歌っていいらしいよと聞いて。いつもより(ドルチェ&ガッバーナの部分をリハで)大きく歌いました」
と記者の笑いを誘った。
とはいえ、人との接触が制限され、イマイチ盛り上がりに欠ける事前取材。それだけに、本番の目玉が何かが注目されてきた。
「昨年末で活動休止に入り、最後の出演となる嵐をどう観せるか、が重大な課題でした。嵐が司会やトリを務めるなど、ここ10年は彼らを中心に据えて紅白を作ってきた。無論、ウチは大トリを狙っていました」(NHK関係者)
だが、当の嵐は大晦日にファン向けの有料配信ライブを20時から年越し前まで行うことになっていた。
「トリはNHKホールからというのが不文律なので無理ですし、嵐としても最後の舞台が自身のライブではなく紅白というのは避けたかった。そこでウチはフィナーレに向けて盛り上がる第2部の後半での出演を打診しました。しかし、紅白の出演は配信ライブを中断させることになるので、盛り上がりに水を差さぬよう嵐サイドは早めの時間にしたかった。そこで第2部前半、21時半過ぎの出演で折り合ったのです。ライブの演出面で権限を持つ松本潤の意向も反映されていると思います」(同)
結果、白組のトリは福山雅治が担うこととなった。
先の記者によれば、
「NHKの『SONGS』などの音楽番組を担当している紅白の加藤英明チーフプロデューサーは福山と親しいことで知られています。ちょうど、昨年がデビュー30周年でもあり、白羽の矢が立ったのです」
本番でその福山の前に登場したのは、かねてその言動が注目される氷川きよしだった。演歌ではなく「ドラゴンボール超」のテーマ曲を熱唱し、衣装では白から紅、ゴールドへと網タイツも着用しながら「三変化」して、宙を舞った。氷川自身も“すべての差異を超えた”とインスタグラムで言及したが、
「氷川は大の高所恐怖症だそうで、低層階じゃないと住めないほど。にもかかわらず空を飛ぶ演出は、いかに紅白に力を入れているかの証。最近の氷川は演歌に飽きてしまって、福岡生まれで同郷の浜崎あゆみを意識していると言われています。今回の紅の衣装は浜崎とも交流があるデザイナーに発注。スパンコール素材の衣装が出来上がった後にイメージが違うと作り直し、完成したのは直前だったとか」(同)
2021年は氷川にとってさらなる「自由」への飛翔の年になりそうだが、他の演歌歌手を眺めると、氷川と違って自由とは程遠いジレンマに悩まされている。
まさかの“卒業拒否”
前出の佐々木氏が言う。
「いまは演歌がとにかく売れない。そこで出場した演歌歌手を見てもらうために過剰な演出をせざるを得なかったのでしょう。今回は歌番組の要素が強かっただけに、そうした演出が浮いて見えました」
見る方としては、まったく歌に集中できない三山ひろしのけん玉ギネス記録挑戦はその典型だった。司会の内村光良も記録達成後に「歌全然聞けなかったけど」と誰もが思っていた本音をポロリ。
また、坂本冬美は桑田佳祐提供の楽曲を披露。歌唱前には桑田が坂本の地元である和歌山のミカン農家に扮した“お寒い”寸劇がVTRで流された。今年デビュー35周年となる坂本はリハ時に、
「紅白を機に桑田さんの曲を皆さまに知っていただいて、大ヒット曲に……」
と、記者に語りながら、演歌界の苦境についてこう吐露していた。
「今、なかなかCDが売れない。演歌歌手っていまだにカセットテープがあるんですよ。カセットもCDも売れないと言われても少しずつ……。私、昭和の人間ですから、配信でと言われてもピンとこないところがあるんです」
奇しくも浮き彫りになってしまった演歌界の悲哀。NHKが大きな懸案としたのも演歌歌手の扱いだった。北島三郎の最多出場に今回で並び、しかも史上初の連続50回という記録を達成した五木ひろしである。
「今年また出場すれば、51回目となり、北島の金字塔を抜く形になってしまう。そこでNHKは昨年の出演依頼の際、五木サイドへ“最後の紅白に”と打診しました。ところが、人一倍名誉欲の強い彼はそれに難色を示して……」(芸能関係者)
まさかの“卒業拒否”に戸惑うNHK。
「この質問をされたくなかったのか、事前の記者会見はドタキャン。結局、大晦日に発表された五木さんのコメントには“大きな区切りとして、万感の思いをこめて歌います”としかなく、どこにも“卒業”とは記されなかったのです。願わくば、次も出たいという思いが滲み出たコメントでした」(同)
無論、NHKとしてはこのまま引き下がるわけにはいかない。本番の五木の曲紹介時、司会の大泉洋にコメントを読み上げさせたのに続けて、
「“区切り”というとても重い言葉をおっしゃった五木さん」
とまで語らせ、巧妙に“最後な雰囲気”を演出した。
さらに紅白の不安材料は五木のみにあらず、とスポーツ紙デスクが総括する。
「視聴率は大台を回復しましたが、21年の紅白はこれまで頼り切りだった嵐がいない。これからは誰をメインにしていくのか。歌番組としての評価を得ても、次に繋げるという意味でNHKとしては課題の残る紅白でした」
国民的番組としての「真価」は今年の年末に問われることになりそうだ。