ヒトラーの後を追う文在寅 流行の「選挙を経た独裁」の典型に
韓国の民主主義が崩壊する。文在寅(ムン・ジェイン)政権が権力を維持しようと「なけなしの法治」を踏みにじったからだ。韓国観察者の鈴置高史氏が無法国家に突き進む隣国を読む。
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大統領候補が判決を批判
鈴置:韓国の左派政治家が司法攻撃に乗り出しました。裁判所が自分たちに都合の悪い判決を相次ぎ下したからです。
文在寅政権は2020年12月16日、尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長に対し停職2か月の懲戒処分を決めました(「ついにヒトラーと言われ始めた文在寅 内部対立激化で『文禄・慶長』が再現」)。
尹錫悦総長は懲戒処分の撤回を求め訴えました。12月24日、ソウル行政裁判所は処分の執行停止を命じました。手続き上の不備を理由にしましたが、結果的には政権の不正の捜査に手を緩めない尹錫悦総長に軍配を上げた形となりました。
すると翌25日、与党「共に民主党」の李洛淵(イ・ナギョン)代表がツイッターで以下のように主張しました。同氏は文在寅政権下で首相を歴任した大物政治家で、次期大統領の有力候補です。
・大韓民国が司法の過剰支配を受けているとの国民の憂慮が大きくなりました。政治の司法化、司法の政治化が危険な水準に至りました。ため息をつくばかりです。
停職2か月の懲戒処分は文在寅大統領の裁可を得ています。行政府の長の判断を裁判所がひっくり返したことを「過剰支配」と非難したのです。
「司法の政治化」とは「政治問題の解決を司法に委ねると、司法が政治に大きな影響力を持つようになる」との意味と受け止められています。処分の執行停止を求めた尹錫悦総長への批判です。
このツイートには直ちに「支持します」、「検察は犯人だ。裁判所は共犯だ」など、賛成のリプライが付きました。さらには「ため息ばかりではなく行動に移せ」と、判決を下した裁判官の処分を求める声もあがりました。
左派系紙、ハンギョレは「執行停止」判決を見越し、司法批判を煽る記事も載せていました。「政治の司法化、いかに防ぐか」(12月23日、韓国語版)です。
政治部のソン・ハンヨン先任記者はこの記事で「もし、執行停止を裁判所が認めれば、大統領が裁可した懲戒を裁判所が覆すということになる。国民が選出して権力を委任した最高権力者の権威が揺らぐ」との理屈をこねて見せたのです。
裁判官も検事総長も弾劾せよ
――次期大統領の有力候補が裁判所を攻撃するとは……。
鈴置:日本人は驚くでしょうね。日本だったら「三権分立を破壊するつもりか」と非難されるでしょう。でも、韓国では「けっこうあること」なのです。ことに今、国会で6割弱の議席を得て、やりたい放題の「共に民主党」はここを先途と司法攻撃に出ています。
昨年12月23日、ソウル中央地裁は鄭慶心(チョン・ギョンシム)東洋大学(韓国)教授に、懲役4年と罰金5億ウォンを言い渡しました。娘の大学不正入学を巡る私文書偽造や業務上横領の罪を問うたのです。
日本でも「疑惑のタマネギ男」として有名になった曺国(チョ・グッ)氏の妻です。曺国氏も保守派の街頭闘争の結果、2019年10月に法務部長官を1か月強で辞任する羽目に陥っています。
文在寅大統領に近い与党議員らは判決を下した裁判官を弾劾しようと主張。さらには検察改革と同様に司法も改革せよと言いだしました。メディアには裁判官も選挙で選ぼうとの意見さえ登場しました。
慶北大学のチェ・ハンス教授はハンギョレに寄稿した「今や判事は選挙で選ぶべきか」(12月28日、日本語版)で「裁判所に対する国民の不信が高まった時には、裁判官を選挙で選び直すしかない」と主張しました。要は、保守派の裁判官を辞めさせ、左派に差し替えようと呼びかけたのです。
「主犯」たる尹錫悦総長に対する弾劾論も立法府から聞こえてきます。慶尚南道知事も歴任した「共に民主党」の金斗官(キム・ドゥグァン)議員が12月25日に唱えました。
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