アメリカ原作超え「コールドケース」 制作陣の矜持を感じる良質なドラマ、キャスティングの妙にも注目

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 海外ドラマ原作のリメイク版は、たいていが露天商の偽造品レベルに終わる。ナイキでなくミケ、アディダスではなくアディオス、ヴィトンではなくボトン。それはそれで笑えるが、日本版が原作を超えることはほぼない。唯一「日本版のほうが面白いんじゃね?」と思わせるのが「コールドケース~真実の扉~」だ。

 最近、大手芸能事務所に魂を売り始めて心配だったWOWOWが制作。2016年から始まり、今はシーズン3まで展開。主演の吉田羊姐さんは適役だし、神奈川県警捜査一課で未解決事件を追うチームが最強の布陣。絵を見て。伝わるでしょ、いぶし銀と手練(てだ)れで固めた少数精鋭の空気が。

 原作に違わず、羊姐さんには凄絶な過去がある。虐待や暴行事件の被害者であり、妹(平田薫)に婚約者を寝取られた経験も。常に冷静沈着だが、適度な湿度と温度のある女刑事を演じる。「中隊長」という仇名もしっくり。一晩飲み明かしたい。

 羊姐さんのバディが唯一の若手・永山絢斗(けんと)。絢斗も、精神を病んで自殺した恋人(藤澤恵麻)、子供の頃に性的虐待を受けた兄(渡辺大)がいるなど、やや重めの過去を背負う。ちょっと目を離すと単独行動をとる絢斗をみんなで育成する感じな。

 街の歴史や過去の事件に詳しく、生き字引的存在は光石研。妻を事故で亡くしているが、その詳細はきっと今後描かれるはず。

 斜に構えた皮肉屋で、容疑者に対する暴言や脅迫も多いが、心根はまっとうな刑事の滝藤賢一。不妊治療が原因で妻とは離婚。この滝藤、妙な色気があるのよ。

 そしてこの面々を束ねる課長代理が三浦友和。仕事中毒の典型だったため、いじめに遭っていた娘をケアできず、家族と疎遠になった過去がある。でも部下の言動には目を配り、締めるとこは締める理想的な上司。書き出してみると、全員が満身創痍だが、哀れみや同情は誘わない。ウェットに描いていない。そこがいい。

 この5人のシーンは、刑事モノによくある「興ざめする解説セリフ」が皆無。無駄がなく端的、ウィットに富んだ丁々発止の会話劇。とても気持ちいいんだよね。

 5人の妙技だけではない。ゲストのキャスティングのセンスがむちゃくちゃいい。外見だけで芝居が下手な棒は出てこない安心感。良質なドラマを作ろうとする制作陣の矜持がうかがえるし、ゲスト出演した若手は必ず躍進。「朝ドラの脇役は売れる」と同じレベルの神通力がある。天狗になって消えた若手もいるが、ある種の登竜門といってもいい。

 アメリカ原作は胸糞悪い性犯罪者や小児性愛者が頻出する。性犯罪者の個人情報を住民に告知するメーガン法もあるし、描ける構図が多彩だ。そのぶん日本版は平坦になるかと思いきや、アレンジが絶妙。過去にはオリジナルの回もあって、日本の多湿な文化と土壌を実にうまく取りこんでいた。

 事件当時の過去と現在の映像の作り方も、音楽の使い方も上質。年月を経た上での被害者の無念も浮かび上がる。豊富な予算ではなく信念と良心で作っている。テレ朝にそれを伝えたくて。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年12月31日・2021年1月7日号掲載

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