大豪雪で50時間立ち往生、「電気自動車」ならどうなった? 暖房は30時間が限界、凍死の危険も

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 年の瀬の日本を襲った突然の大豪雪。多くのドライバーが寒さに震え、空腹と寝不足に苛まれながら夜を明かした。もしも、同じ状況でEV(電気自動車)が立ち往生していたら――。そこには、世界的なEV化の波にさらされる日本が熟慮すべき課題があった。

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 氷点下まで冷え込んだ深夜の高速道路に、ヘッドライトの灯りが一直線に並ぶ。どの車のルーフにも、真新しい雪がこんもりと積もっていた――。

 日本海側を中心に降り続いた大豪雪の影響で、昨年12月16日の夕方から、関越自動車道では大規模な渋滞が発生。一時は上下線合わせて2千台を超える自動車が立ち往生する事態となった。除雪のために自衛隊まで出動し、すべての車が移動を終えたのは52時間後のことだった。

 新潟県南魚沼市消防本部の若井高志・消防次長が振り返るには、

「2019年は雪がほとんど降らなかったんですが、今回は県内全域がいきなり豪雪に見舞われてしまい、除雪作業が間に合わなかった。立ち往生の現場からは、吐き気や動悸、脱水といった症状を訴える方々を救急搬送しています」

 GoToトラベルが一時停止されたとはいえ、仮に、大雪のタイミングがわずかでもずれていれば帰省ラッシュのど真ん中。被害がより拡大していたことは明らかだろう。

 それに加えて、こんな疑問も生じる。

 このところ何かと話題のEV(電気自動車)が、同じように立ち往生したら一体どうなっていたのか。

「車内で暖房を使えば走行可能距離も短くなるし、充電スタンドだって限られている。この辺りでEVに乗るのは相当、勇気がいりますね」(同)

 目下、菅政権は2030年代半ばまでに、国内で販売するすべての新車を「電動車」に限定する方針で、経産省が調整を進めている。電動車にはEVの他に、モーターとエンジンが併存するHV(ハイブリッド車)も含まれる。小池百合子都知事も都内の新車販売について、同様の目標を設けることを表明した。

 だが、日本で自動車産業に従事する労働者は540万人。ガソリン車と比べて部品総数が3分の2程度で済み、組み立ても単純なEVが普及すれば、多くの雇用が失われるのは必至。労働者とその家族を含め、およそ1300万人が路頭に迷う恐れすらあるのだ。

 無論、世界的な“脱炭素”、そして“EV化”の流れに逆らうことは困難だろう。

 だが、現行のEVは決して万全とは言えない。なかでも、日本の冬はかなりの鬼門である。

「今回、立ち往生した車のほとんどがEVだったら、より深刻な事態に陥っていたと言わざるを得ません」

 自動車業界に詳しい、株式会社ピーコックブルー代表の瓜生(うりゅう)洋明氏はそう語る。

「雪深い地域に住む方々は、ガソリン車でも四輪駆動車を購入するのが一般的です。四輪駆動EVは日産が21年に“アリア”を発売予定ですが、現在はほとんど出回っていません。それに、雪国に住む人はそもそもEVを買わない。最大の問題はバッテリーのリスクです。一般的にバッテリーは、氷点下の寒冷地では通常時と比べて20%ほど性能が落ちると言われます。つまり、EVはガソリン車より航続距離が短い上、寒冷地だとさらにパフォーマンスが低下する。バッテリー残量が底をつけばタイヤが動かないどころか、車内のエアコンも止まってしまいますからね」(同)

暖房は20~30時間が限界

 実は、日本は世界でも有数の“雪国”である。

 国土の半分が“豪雪地帯”に指定され、そこに約2千万人が暮らしている。今後、EVを広く国内に普及させるのであれば、寒さや雪への対策は避けて通れない課題なのだ。

 瓜生氏が続ける。

「ガソリン車は、燃料が満タンならアイドリング状態で40~50時間はエンジンが駆動し続けます。最近の車種はその程度ではエンストやオーバーヒートを起こしません。また、燃料を使い切っても、近くにガソリンスタンドがあれば、携行缶などを用いて給油することもできます。一方、EVの場合、アイドリング状態でバッテリーが持つのは1日程度。しかも、残量がゼロになったら特殊な電源車を呼んで給電してもらうしかない。今回の関越道のように道路が車で埋まってしまい、周囲を雪で閉ざされた状況では、そうした助けも期待できません」

 となれば、バッテリーの減り具合に気を揉みながら、渋滞が解消するのをじっと車内で待ち続ける他ないが、

「ガソリン車の暖房はエンジンの排熱を車内に流入させる仕組みになっているため、暖房をつけても燃費にはほとんど影響がありません。しかし、EVは排熱を二次利用できず、暖房を使うことでさらに電力を消費してしまうのです」(同)

 それでは、実際にEVが立ち往生したとして、どれくらいの時間、暖房を使い続けることができるのか。

 自動車評論家の国沢光宏氏に試算してもらった。

「EVはリチウムイオンバッテリーでモーターを動かしています。高速道路のサービスエリアなどに設置されている急速充電器を使うと、30分ほどで充電できるのですが、バッテリーへの負荷を考慮して容量の80%までしか回復しません。また、EVはバッテリー残量が5%になると車の電源が落ちてしまいます。つまり、高速道路を走っている際に使用できるのは容量の75%ほど。40キロワットのバッテリーだと30キロワットを使える計算です。暖房には1時間で
1~1・5キロワットほどの電力を消費するので、充電直後でも暖を取るのは20~30時間が限界です」

 関越道では、丸2日以上、車内から動けないドライバーも少なくなかった。その車両がすべてEVだったとしたら……。心身ともに凍え切り、言うまでもなく、人命に関わる危険な事態に至っていたはずだ。ちなみに、HVの場合はガソリン車と同じく、エンジンの排熱を暖房に利用できる。

 国沢氏が言う。

「いまのEVに、ガソリン車と肩を並べるほど実用的なモデルが揃っていない。いわば“よちよち歩き”の段階なのです。もちろん、バッテリーが改良されれば、デメリットを克服することも十分に期待できます」

 とはいえ、地方の豪雪地帯に住む人々にとって、車は道楽などではなく、“生活の足”に他ならない。

 果たして、わずか十数年でEVは命を預けられるマシンとなり得るのか。そこにはまだ疑問が残る。

週刊新潮 2020年12月31日・2021年1月7日号掲載

特集「大豪雪立ち往生!『電気自動車』なら一体どうなった!?」より

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