舌が衰えると「新型コロナ」「誤嚥性肺炎」のリスク増に 専門家が教える「舌矯正」の実践法

ドクター新潮 健康 整体

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舌を鍛え直す四つの実践

 ここでいったん、まとめておきましょう。舌筋が衰え、ゆるんでしまうと、1.視覚的には、二重あごになってしまう。2.滑舌が悪くなって、人とのコミュニケーションに支障をきたしてしまう。3.口呼吸になり、集中力が低下し、そのうえ免疫力が低下してしまう。4.誤嚥を起こしやすくなって、高齢者の場合、誤嚥性肺炎の原因にもなり、命に直結する――。

 たかが舌、と思われている方が多いかもしれませんが、私たちの健康をこれほど大きく左右するのです。

 だからこそ、舌筋を衰えるに任せておくという手はありません。しかし、幸いなことに、セルフ矯正によって、家にいながら自分で舌筋を鍛え直すことができます。これからトレーニングの方法を、細かくお伝えしたいと思います。

 A.最初に、舌筋を押し上げます。舌を本来あるべき位置に戻すためのトレーニングで、これを行うことで舌にとって適切な環境を作ります。

 私はいつも患者さんに口を閉じてもらってから、「あなたの舌はどこにありますか?」と尋ねます。正しく機能している舌は口蓋、すなわち上の歯列の裏側付近に当たっています。舌の先が口内のどこにもついていなければ、舌が引っ込み、たるんでいる証拠。そこでまず、舌を正しいポジションに戻します。

 親指を揃えてのどぼとけの前に置きます。そして指をグーッと押し上げ、押し上げながら抵抗するように口を開いていきます。このとき舌に力が入ります。

 この動作を10回ずつ、3セット以上行ってください。これによって押し上げられた舌は、本来の正しい位置に収まって、すぐに舌の動きが改善されます。滑舌も向上するのを実感できるはずです。

 B.次に、舌が収まる口蓋の環境を整えます。かなり多くの方が、ほお骨が落ち込んで、あごの筋肉(咬合筋(こうごうきん)、俗に咬筋と呼ぶ)が凝ってしまっています。実は、この凝りが舌にも影響を与えているので、ほお骨を正しい位置に戻すことで、咬筋の凝りをとる必要があるのです。

 両の手のひらで顔面をしっかりつかんだら、その手のひらを押し上げるようにしつつ、顔を押し下げます。手は上に、顔は下に、という方向です。1回に5秒ほど費やし、それを3セット行ってください。

 こうすることで、口のなかのスペースが広がり、舌の収まりがよくなるのです。また咬筋がゆるんで、舌筋にもよい影響がおよび、口を開けやすくなります。

 C.今度は下あごを引き出しましょう。あごの筋肉、つまり咬筋が凝ると、あごは詰まってしまいます。かみ合わせが悪い、食いしばってしまう、歯ぎしりをしてしまう、と自覚している方が非常に多いですが、原因はたいてい咬筋の凝りです。下あごが上がって詰まると、舌が収まる場所が失われ、こうした症状が引き起こされます。ですから、下あごを引っ張り出す必要があるのです。

 歯を食いしばると、上下の奥歯のあたりに筋肉の固まりが確認できます。その一番固い部分、すなわち下の奥歯の付け根の部分に中指と人差し指を当て、指を回しながらよく揉みます。指にはあまり強い力を加えなくても大丈夫ですが、あごを思い切り下げるように意識してください。30秒ほど続けましょう。

 ここで舌の位置を再確認しておきます。なにもしていないときに、舌の先が上の歯列の裏側付近についているかどうかを、もう一度確かめ、常に舌をそこにもっていくようにあらためて意識してください。

 D.ここからいよいよ舌筋のトレーニングに入ります。少し上を向いて舌を突き出すトレーニング、いわゆる舌トレです。これは世間一般でよく行われているものに近いです。

 口を開け、舌を出して伸ばし、上の歯をなぞるようにします。不二家のマスコット「ペコちゃん」の顔のイメージで、そのまま舌を右に左に行ったり来たりさせます。その際、舌はずっと伸ばしたままで、右端で3秒ほど止め、ゆっくり動かして左端でまた3秒止めます。これを1回につき5セット行ってください。舌筋が引き締められ、機能が向上します。

 ここまで紹介したA~Dのエクササイズは、1日に1回でも2回でも、やるだけ効果があります。効果を確認したら、ぜひ日常の習慣にしてほしいです。

 E.最後に、舌が引っ込まないための姿勢を身につけたいと思います。猫背だったり、デスクワークなどが原因で首が前傾してしまったりすると、舌が押し下げられ、口のなかで奥まってしまいます。そうならないためには、普段から頭を下げない姿勢を意識する必要があります。

 椅子に座っているとき、骨盤が後方に倒れていると猫背になりがちです。しかし、骨盤を立てるようにして座ると、あごが自然と引けて、舌が正しい位置に収まるのです。

誤嚥と二重あごの関係

 毎日、整体に来られるお客さまを相手に話していて、食事をうまく飲み込めないという方、つまり、誤嚥の悩みをもっている方が非常に多い、という印象があります。必ずしも嚥下障害と診断されていなくても、少し大きな食べ物を口に入れると、なかなか飲み込めないというのです。

 そうした方は、60歳以上に顕著に多く、あるときその方たちに共通する傾向に気づきました。みなさん太ってもいないのに、のどの肉が下がって二重あごになっているのです。さらには滑舌が悪く、口呼吸の特徴も見られました。

 それ以来、舌を正しい状態に戻せば、今回取り上げた四つの大きな問題を解決できるはずだと思って、研究を重ねつつ、実践してきました。実際、今回紹介した矯正を施すことで、みなさん不都合が見事に改善されるのです。

 たとえば、滑舌が非常に悪くなっているお客さまがいました。コミュニケーションに支障をきたし、対人関係にも自信を喪失されていたのですが、舌の矯正で自信をもって喋れるようになりました。そういう方は、コミュニケーション力自体が向上しています。

 一方、あるお客さまは、物を食べるとき、いつも途中でつかえる感じがあるのが悩みでした。それがしっかりと飲み込めるようになり、きちんと食道に送り込めている実感がある、と話しています。

 また、年齢を重ねるほどヴィジュアル上の個人差が大きくなり、気にされる方は非常に多いです。その点でも、「のどの周りがすっきりした」「二重あごが改善された」という声を数多くいただいています。

 たかが舌、されど舌。ここまで述べてきたように、実は、それは健康を維持するための要のひとつです。年齢を重ねるほどに健康に影響する免疫力に大きくかかわり、そのうえ対人関係にも絶大な影響をおよぼします。

 とりわけ新型コロナウイルスと共存せざるをえない状況下では、日ごろから健康を維持し、免疫力が高まるように努めることが、ひときわ大切になっています。また、新型コロナの一番の怖さは、やっかいな肺炎を引き起こすことにありますが、誤嚥も死にいたる深刻な肺炎につながることは、ご存じだと思います。

 ぜひ今日から、舌を鍛え、正しい位置に戻すための小さな実践を、日常生活のなかに取り入れてください。

清水六観(しみずろっかん)
美容矯正士。明大柔道部時代から数々の整体を学び、独自の理論による整体術を確立。体形が崩れる原因として骨盤のゆがみに着目した。骨格矯正と健康指導の「ろっかん塾」院長(東京都杉並区高円寺南4-27-18 6階、電話03-5929-7042)。日本美容矯正士協会理事長。

2020年1月3日掲載

特集「自宅で簡単にできる! 『誤嚥性肺炎』を防ぐ『舌矯正』」より

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