「日本はなぜそんなことに?」 元特殊部隊員が明かす「海外軍人の驚愕」
自衛隊員が仮に他国で…
柳瀬 1988年ごろに入隊されているから、90年代の終わりくらいまではのけものにされていた感があったわけですね。そのような行為が横行していたのも、国の中での自衛隊の位置づけが不明瞭だからですよね。
伊藤 不明瞭なのに、形としてははっきり可視化されているわけですから。突き詰めると、結局、国とは何か、理念はあるのかということですね。
成毛 この本には国とは何か、何を守るべきか、その話が極めて具体的に書かれていますよね。その視点で伊藤さんのこの本を読んで驚いたのが、軍法が日本にはないということです。具体的に主人公である特別警備隊先任小隊長の藤井が部下にそれを答える場面が出てきます。
柳瀬 非常に興味深いです。自衛隊が軍か軍ではないかという議論は別にして、自衛隊を律する自衛隊法はあるものの、裁判は一般の裁判所で行われる。つまり、軍法を含めた軍司法制度がない。その状態でどういうことが起きるかについては、多くの人が知らないと思います。自衛隊の人が仮に他国で戦闘に巻き込まれるなどして相手を殺して捕まったときに、いわゆる軍人として処遇されないということですね。
伊藤 はい。軍として規定されていなければ、単なる殺人犯とされてしまいます。
他国兵士が驚愕する「軍法がない国」
柳瀬 軍隊を持つ国では、多くが一般の司法制度とは独立させて軍法や裁判制度を持っています。他にも、国際法では、戦争をしている国の間で、例えば捕虜になった場合にいかに扱うかを決めていますよね。それは軍人の人権を守るためでもある。でも、軍人として扱われないとその権利はない。あくまでも原則論ですが、とても恐ろしい状態に自衛官は晒されているわけですよね。この問題は現場にいる間もずっと感じていたんですか?
伊藤 実は私自身も長い間、自覚はなかったんです。これに気付いたのは、特別警備隊のために研究や訓練をするべく、海外の軍人と話すようになってからですね。彼らと話して受けた衝撃が二つあるんです。
まずこれは想像できるかもしれませんが、日本の自衛隊は英語では理解されません。英語では「セルフディフェンスフォース(Self-Defense Force)」ですが、海外では通じません。「おまえらは自警団か」と言われてしまう。
むしろ、向こうでは海上自衛隊は「ジャパンネイビー(Japan Navy)」、日本の海軍と呼ばれます。「ネイビーじゃない」と日本の自衛隊が置かれている状況を説明すると、ほぼ全員が準軍隊なのだと理解します。憲法の絡みもあって変な名前なのかと納得するんですが、「実は軍法がないんだ」というと「はあ?」となるわけです。軍法がないというのは憲法の絡みがあろうとなかろうと、現場の彼らにしてみれば信じられないんですね。ちょっと信じられないという反応です。驚くというより、引いてますね。
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