「日本はなぜそんなことに?」 元特殊部隊員が明かす「海外軍人の驚愕」

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「国民の生命財産を守る」以外の大切なもの

柳瀬 僕らは、例えば、米国が中東に派兵して米軍に死者が出ることはニュースで見聞きしていて一応知ってはいます。でも、それは結局、遠い他国の話としてしか認識できていませんよね。この本を読むと、現代において自衛隊員が戦闘で亡くなることの重さと、政治と軍事の現場の緊張関係が一般の人には全く見えていない、という現実を痛感させられます。

成毛 だからこそ、国がどうあるかは非常に重要なんですね。自衛隊の法的な位置づけ以前に、国がどうあるべきかをこの本は、強く突き付けてくる。しかも伊藤さんの体験をもとに現場から突き付けている形なので、非常に重い。

柳瀬 伊藤さんは現役時代に、「もしかしたら俺の部下が30人死ぬとしても10人を助けないといけない」という判断を迫られたことはあるんですか。

伊藤 そういう状況に身を置いたことはありました。でも、これは先ほどの発言と矛盾するかもしれませんが、実は、私はその時はそこまで困っていないんです。

成毛・柳瀬 えええっ!  

伊藤 自衛官はみんな、感覚的にはわかっているからなんです。「国民の生命財産を守る」と言葉ではそうであっても、それ以外の大切なものがあるということを認識しているんです。自衛隊が求められる公の側面を丁寧に考えている自衛官は非常に多いと思います。細かい日常でも、考えざるを得ない状況に身を置くからです。

柳瀬 明文化はされてないけど、共有しているわけですね。

伊藤 はい。だから、「国民の生命財産を守るために我々はいる。自衛官が死ぬリスクが高いこの作戦はおかしいじゃないですか」といった主張をする自衛官は少ないんです。国民の生命財産とは違った形で大切な守るべきものがあると考えて、自衛隊に入ってくる人間はびっくりするぐらい多いんです。海上自衛隊にいた20年の間に多くの仲間とそこを話した経験から言えることです。

柳瀬 葛藤もないんですか。

伊藤 当然、あります。同じ職業の私が、包み隠さず心を開く前提で話したから、聞けたことだったかもしれません。

「先進国同士の全面戦争」が起こる可能性

柳瀬 そういう葛藤に一般の私たちが気付きにくいのは、現実的に自衛隊と国の関係について考えることがほとんどないからでしょうか。例えば中学や高校、大学の授業で習って、社会人になって報道で見聞きしている自衛隊についての一般国民の知識は恐ろしく乏しい。自衛隊が国民を助けるかどうかの視点くらいしか持てません。国とは何か、国の役割とは何か。意識することは、滅多にないといっていいくらいです。

成毛 ないでしょうね。そもそも日本と他国との間で軍事衝突が起こるとは誰も想像すらしていないのが現実ですよね。もちろん、これから数十年くらいのスパンで考えれば、日本と他国の間に全面戦争が起きる可能性が現実的だとは僕も思っていません。具体的に領土問題のある中国にしろ韓国にしろ、経済的な先進国ですから、先進国同士が全面戦争することは今の状況下だと考えにくい。失うものが多すぎますからね。

 もしかしたら、政治的なイニシアチブを握るために小競り合いはありうるかもしれませんが、全面戦争にはならないでしょう。そして、万が一、小競り合いが起こるにしても、みなさんが想像するような、人間同士が実際にぶつかる「戦闘」ではないでしょう。例えば、第2次世界大戦のころとは全く違います。一般の市民を徴兵して戦うスタイルは想像できない。船にしろ武器にしろ、ミサイル、飛行機にしろ、エキスパートたちが集まって作戦を立て、コンピュータのネットワークを駆使して、実行するという内容です……小銃を持って戦場を走っても、B29に竹槍を突いても、意味がない。

柳瀬 小中高で学んできたこと、あるいは学んでこなかったことと、まったく前提が違う世界が現実には広がります。

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