女性宮家に代わって浮上した「皇女」案をどう捉えるべきなのか

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配偶者や子は皇族? 准皇族? 民間人? 噴出した女性宮家の問題点

 皇女案は、これまで述べてきたように、野田政権下での論点整理を土台に、二つの付帯決議の内の「女性宮家の創設等」について検討した結果であり、皇族の減少に伴う皇室の御活動を維持するための制度として打ち出されたものだ。それでは、なぜ女性宮家が否定されたのか。

 女性宮家は一般男性との婚姻を前提としており、皇室の歴史にない制度であって皇室という存在の質的変化をもたらすということを先に確認しておきたい。具体的には、配偶者やその子をどう遇するかという極めて難しい問題が生じてくる。野田内閣で行われた論点整理でも、以下のようにさまざまな意見が噴出し、その混乱ぶりが浮き彫りになった。

【1】配偶者に限って、一代限りで准皇族的な待遇を付与する
【2】配偶者や子についても皇族に準じた扱いをする
【3】配偶者や子についても皇族とする
【4】将来的な女系天皇を危惧するなら皇族としないことでもやむを得ない
【5】配偶者や子は皇族としない方が良い
【6】配偶者や子について民間人とした場合、戸籍、姓、家計などの面で不自然な家族となる

 これらの各案については、俗な言い方をすると、突っ込みどころ満載である。准皇族的な待遇を一代限りで付与した場合、その次はどうするのか? 先に女性当主が亡くなった場合はどうするのか、当主を引き継ぐのか? その子はどういう身分になるのか? 女性皇族には姓はないが、皇族とならない配偶者や子は結婚前の姓を名乗るのか? その方たちにも敬称を使うのか? 配偶者をいきなり皇族にしたり、皇族に準じた扱いをすることに果たして国民が納得するのか?――。女性宮家創設を口にする人たちは、この疑問にどう答えるのか。女性宮家を軽々に口にすることがいかに無責任なことかがわかるというものだろう。

「両陛下をお支えしていくことに変わりなく」と語って皇籍を離れた女性皇族の言葉の重み

 問題は他にもある。仮に内親王が当主となる前に男性と交際していた場合、その男性が皇室のメンバーとしてふさわしいかどうかを誰がどうやってチェックするのか。誰もが心配することだ。もっと厳しい問題を指摘する声もある。仮に内親王が女性宮家の当主となったとして、そこに外部から伴侶として入ってくる男性が現れるとは限らないのだ。現実にはかなり難しいであろうことが想像できる。女性宮家の当主となっていただくには、前段としてご本人のご意思を確認することが絶対条件である。皇女と同じで強制はできない。宮内庁の幹部がこんなことを言った。

「ご結婚のご意思やお勤めの希望があるのに、宮家の当主として皇室に残るか、皇籍を離脱するかの二者択一という残酷な選択を迫られることもあり得る。それほど重大なことなのに、女性宮家を机上の空論で簡単に考える人が多いのは嘆かわしい」

 平成30(2018)年10月に結婚した高円宮家の三女の守谷絢子(あやこ)さんは、明治神宮での結婚式を終え、「皇族の一員に生まれるということは、天皇、皇后両陛下をお支えすることだと教わりながら育ちました。今日をもって私は皇族を離れますが、元皇族として天皇、皇后両陛下をお支えしていくということに変わりはございません」と記者たちに語った。皇族のご活動を支える方策を考える時には、こんな発言をされた方がいたことも忘れてはならない。内親王だけではなく、高円宮家や三笠宮家の女性皇族方(女王)、あるいは既に皇籍を離れている天皇陛下の妹である黒田清子さんも「皇女」の対象となっていただきたいと思う国民も少なくないかもしれない。

椎谷哲夫(しいたに・てつお)
昭和30(1955)年宮崎県都城市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、中日新聞東京本社(東京新聞)編集局で警視庁、宮内庁などを担当。宮内庁では5年余にわたり昭和天皇崩御や皇太子ご成婚などを取材。休職して米国コロラド州で地方紙記者研修後、警視庁キャップ、社会部デスク、警察庁担当。在職中に早大大学院社会科学研究科修士課程修了。総務局、販売局、関連会社役員を経て令和2(2020)年9月末、編集局編集委員を最後に退職。現在、ジャーナリスト(日本記者クラブ会員)として活動。著書に『皇室入門』(幻冬舎新書)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月2日掲載

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