「個人の能力を重視しない米軍」 元特殊部隊員が語る自衛隊の組織系統とマネジメント術
元海自特殊部隊員が伝える、自衛隊のリアル!(2/3)
元海自特殊部隊員、伊藤祐靖氏の『邦人奪還~自衛隊特殊部隊が動くとき』は、北朝鮮にいる拉致被害者を、特別警備隊(海自特殊部隊)が救出するというストーリーとそのリアルな描写が話題だ。組織系統のリアルさも著者自身が身を置いていたからこそ。特別警備隊小隊長時代に作り上げた、どんな企業でも生かせるマネジメント技術とは。元日本マイクロソフト社長でHONZ代表の成毛眞氏と東工大教授(メディア論)の柳瀬博一氏が伊藤氏に切り込んだ。
(2020年9月25日に「下北沢B&B」で行われたトークライブ「自衛隊特殊部隊が動くとき」より)
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柳瀬博一(以下柳瀬) 伊藤さんが書かれたドキュメント・ノベル『邦人奪還』は自衛隊の内部の描写も印象的でした。目立ったところでは、陸上自衛隊(陸自)と海上自衛隊(海自)のカルチャーの違いが思っていたより大きく、本を読みながら笑ってしまいました。例えば、陸自よりも海自の方が、指示確認がしっかりしているイメージです。同じ特殊部隊でも海自と陸自では命令系統は大きく違うものなんですか。
伊藤祐靖(以下伊藤) 特殊部隊は、それほど変わりませんね。変わらないというよりも、陸海空全ての自衛隊の中で装備もミッションも陸自と海自の特殊部隊ほど共通している部隊は他にありません。ですから、当然、似る部分が多くなります。
成毛眞(以下成毛) 本の中で「特殊部隊にずっといると他の部隊では食えなくなる」という話があって非常に興味深かったのですが、これは陸自にもあてはまるんですか。
伊藤 あれは海の特殊部隊で、陸の特殊部隊は違いますね。陸自の特殊部隊は年齢的に厳しくなって一般部隊に戻ると、重宝されて尊敬のまなざしすら受けます。豊富な経験と、すごい知識と、理想的な肉体を持っていますから。
ところが、海の特殊部隊での経験や技術は他の海自の部署ではほとんどが使えません。夜間にパラシュートで決められた場所にピンポイントで降りる能力があっても海自では役に立ちませんし、山の中で補給がないまま何日間も生活できる能力もめったに使いませんし。だから文字通り、「特殊な部隊」なんです。年齢的にも特殊部隊が厳しくなって、船乗りに戻っても、役に立たないんです。特殊部隊にいた期間がすっぽり抜けた、階級と年齢だけが上の使えない人になります。
海自は柄が悪い?
柳瀬 ミッションは陸海で似通っていても置かれる組織によって、部署を離れた時に全く技術が生きない。出された例がそもそも特殊ですが(笑)。
伊藤 それから、雰囲気は違いましたね。私がいた頃は、陸自の方が理性的でした。海自が理性のない人間の集まりだということではないのですが、言葉を選ばずに言ってしまいますと、柄があまり良くなかったですね。
柳瀬 昔の小説のイメージでは、海軍が紳士でお洒落、陸軍が真面目でおっかないイメージなんですが、今のお話を聞くと真逆に聞こえますね 。
伊藤 昔から海軍というと軟派なイメージが確かにあります。実態は別として、白い制服でチャラチャラしてというイメージがあるんですかね。私も、どこの国に行っても、自分の職業を告げると「港ごとに女がいるんでしょ」って言われました。「いるわけないだろ」って話ですが、世界的な都市伝説として「海軍=軟派」はあるのかなと思います。
成毛 でも、実際のところ、ちょっとはやっぱりモテる?(笑)
伊藤 いや、それが全くモテないから、都市伝説なんですよ。
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