元特殊部隊員に聞く「すごい身体」になる秘訣 ワニ、アシカの動きから学んだこととは
海図からわかること
柳瀬 『邦人奪還』での特殊部隊員の動きをいくつか教えていっていただきましょう。本の中では大雨の中、暗闇の海を泳いで敵国に侵入するわけですが、こうしたことを可能にするために、どのような訓練をされているんですか?
伊藤 真似されて溺死されても困るんですが、実は、そんなに難しいことではないんです。これもシンプルな話です。
暴風雨の最中の海でも普通の海の中でも、水の動きは人間の体の大きさくらいでは変化しません。波と波がぶつかって不規則な動きをする時もありますが、水面が、1秒後にどの高さになるかは、想像がつきます。波にも周期があるので、暴風雨の中にいようとも、海の中であれば想像がついてわかるんです。陸から見ていると、とてつもなく海が荒れているように見えますが、中にいる人にしてみれば、自分と水との関係、浮力は一定ですからそうでもありません。
柳瀬 そうか。うねりに乗っているあいだ、波に上下動はあるけれども、実際は予想外の動きをするわけでもなく、ふりまわされるわけでもないんですね。
伊藤 周りの水が上下しているだけなんですね。もちろん、行きたい方向と潮が逆だったらそれは大変なことになります。海で潮と逆の方向へ泳ぐのは、川ならば上流に向かって泳ぐのと同じ、ヘトヘトになります。
柳瀬 本の中では、冒頭に魚釣島に上陸しますけれど、どこで入水するか、どこに上陸するか、ポイントはだいたい決まっているわけですね。
伊藤 海図をみれば潮の概ねの方向と流速が書いてありますから、ポイントがしぼれます。魚釣島だと、西から東に流れてますから、東から入水することを避ければいいわけです。海図には、とんでもなくたくさんの情報が含まれていますから、じっくりと見ればよいと思います。
柳瀬 それを読み解けるかどうか(笑)。
孤島に一つだけ持っていく道具は…
柳瀬 実際に伊藤さんは、孤島に上陸して過ごされたことはあるんですか。
伊藤 あります。
柳瀬 上陸されてまず何をするんですか? 全く想像がつきません。
伊藤 まず、水は欲しいですね。地形や気温など環境要因で左右してきますが、入手の方法はいくつかあります。雨水を集める方法もあるし、海水を沸かして蒸留する方法もあります。湧いてくる水を探す、つまり、井戸を掘る方法もあります。井戸と聞くと大がかりに聞こえるかもしれませんが、30センチほど掘れば、土壌によってはたまってくる場合もあります。
柳瀬 なるほど。井戸って思っていたより、簡単に掘れるんですね。無人島に漂着してもやっていけそうな気がしてきました。気がしただけ、ですが(笑)。ちなみに、伊藤さんが、孤島に持っていきたい道具はなんですか。ひとつだけ持っていけるとしたら?
伊藤 刃物は欲しいですね。
柳瀬 本の中でもナイフの描写がありましたね。刃物もいろいろありますが?
伊藤 持っていくならばナタですね。
柳瀬 えっ、ナタですか。
伊藤 ナタです。包丁のような形ではなく、先端がとがった形が望ましいですね。
ナタが1本あれば、料理をしたり、木を切り落としたり幅広い用途に使えます。刃の場所によって研ぎ方を変えれば、一つのナタで違う目的にも使えるようになるんです。
柳瀬 急に、ナタが格好良く思えてきました。ナタ、いいですね、買っちゃおうかな。ナタは孤島には必須でも、さすがに今日は持ち歩いていませんよね。
伊藤 さすがに、持っていません。
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