元特殊部隊員に聞く「すごい身体」になる秘訣 ワニ、アシカの動きから学んだこととは
元海自特殊部隊員が伝える、自衛隊のリアル!(1/3)
元海自特殊部隊員、伊藤祐靖氏の『邦人奪還~自衛隊特殊部隊が動くとき』は、北朝鮮にいる拉致被害者を、特別警備隊(海自特殊部隊)が救出するというストーリーとそのリアルな描写が話題だ。暗い海に忍び潜る様や具体的な戦闘シーンなど、その圧倒的なリアリティを裏付けるのが、特別警備隊小隊長時代、そして、退職後にミンダナオ島で培った身体技術だ。その身体はどうやって作られるのか、東工大教授(メディア論)の柳瀬博一氏が伊藤氏に切り込んだ。
(2020年9月25日に「下北沢B&B」で行われたトークイベント「自衛隊特殊部隊が動くとき」より)
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柳瀬博一(以下柳瀬)『邦人奪還』を読むと、特殊部隊の人たちの常人離れした能力にひたすら驚かされます。訓練は何から始めるのでしょう、想像が全くつかないんですが。実は、今日は「本格的な訓練がある」と伺ったのでパタゴニア(アウトドア用品ブランド)で揃えてきたんですが?
伊藤祐靖(以下伊藤)残念ながら雨天のため、今日は肉体訓練は中止です。
柳瀬 そ、そんな……。
伊藤 まず、「立つ」ことですね。言われたので私もこんな格好ですが、まずは基本からです。
柳瀬 え、立つことですか?
伊藤 はい。正しく立つことはすべての基本です。骨盤の真上に頭蓋骨があることを意識して立ちます。骨盤の真上に頭蓋骨がないと、体は必ずどこかに傾きます。例えば前傾していると背骨の周りの筋肉は全部緊張状態になります。
柳瀬 前に引っ張られてしまいますね。
伊藤 そうなると背骨に波を打たすことができなくなります。脊椎動物にとって、背骨に波を打たせることが動きの基本ですから、体の中で一番重たいもの(頭蓋骨)を背骨の上にちゃんと置く意識は欠かせません。正しく立って頭蓋骨の重さを、背骨に全て託して、背骨の周りの筋肉を弛緩させることが初歩中の初歩ですね。
特殊部隊の基本は「正しく立つ」こと
柳瀬 これは泳ぐ時も陸上で動くときも共通しているんですか。
伊藤 そうです。特殊部隊と聞くと、想像も及ばない訓練をしている印象があるかもしれませんが、基本はシンプルなんです。体をいかに上手に使うかに尽きます。そのためにはまず正しく立つ。正しく立って体をうまく使えば、筋力に過剰に頼る必要もなくなります。
柳瀬 えっ、そうなんですか! 特殊部隊と聞くと、物凄いトレーニングをして筋肉を鍛えているイメージですが。
伊藤 もちろん、筋力は重要です。ただ、我々の場合は海中に潜って、呼吸を止めるなど、特殊な環境下での任務を想定しています。筋肉は重いし、カロリーも消費します。少ない消費量で長く行動するという前提に立つと、実は筋肉は必要以上にはつけたくないんです。多すぎる筋肉は行動の妨げになりかねないので、体の使い方でカバーするという発想に至るわけです。
柳瀬 その体の使い方の基本が、「背骨が波打つ」なんですね。『邦人奪還』の中でも特殊部隊員たちが、フィンを使って真っ暗な海を泳いで島に上陸するシーンがあります。僕も趣味でダイビングをやっているので想像が多少はつきますが、海は波も潮流もあるので、泳ぐのに体力を使いますよね。あれも背骨を波打たせているんでしょうが、特殊部隊は泳ぎに関してはどんな訓練をされているんですか。
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