「ビートルズはこれで解散!」と聞いたけれど、書かなかった「星加ルミ子」かく語りき

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

この地球がなくなっても

 聞いた場所に星加は向かう。

「その狭い通りが人でごった返していたんです。ビートルズ!? ってオフィスの窓という窓からは、サラリーマンやOLが顔を出してわさわさしている。こんな真昼間にうるさいぞ! って、屋上に向かって怒鳴っている紳士も」

 今にも雪が降ってきそうな寒い午後だった。ロビーに入ったら微かに音が聞こえた。

「『ゲット・バック』が流れていました。すぐに演奏が終わって、とんとんとんと階段を駆け下りる足音がした。最初に降りてきたのが黒のスリーピースにストライプのシャツを着たポール。“ハーイ、ルミ、“You live in London?(ロンドンに住んでいるの?”っていつものジョークを言いながらすり抜けるようにクルマの中に姿を消した。それから残りの3人。とにかく寒いからほっぺを真っ赤にして降りてきて、風のように走り去った。ジョンはヨーコの毛皮を着ていた。それが4人を観た最後でした。そのあと間もなくして彼らは解散を宣言したんです。65年最初に会ったときは無邪気な若者だった。それから4年が経っていた。ビートルズがこの世から消えて、ポールもジョージもリンゴも日本に来たけれど、私はもう会うことはありませんでした」

 彼らはそれぞれに家族を持ち、それぞれの人生を歩みはじめていた。以前のようにいつも一緒ということはなくなっていた。

《辛く悲しいときも、楽しいときもあった。輝く太陽も見た。羽を伸ばしたこともあったし、頑張ったことも、意地を張ったこともあった(「アイブ・ガット・ア・フィーリング)」

 そう屋上ライブでロンドンの寒空に向かってジョンは歌っていた。

「ベートーヴェン、モーツァルト、そしてビートルズはこの地球がなくなっても聴き継がれるはずです。すごい人たちと会うことができて幸せでした。50年以上前。1965年の初々しい4人は忘れられません」

延江浩
1958年東京生。慶応義塾大学文学部卒。TOKYO FMゼネラルプロデューサー。作家。小説現代新人賞。主な著書に『アタシはジュース』(集英社文庫)、『いつか晴れるかな 大鹿村騒動記』(ポプラ文庫)、『愛国とノーサイド』(講談社)、企画・編纂として『井上陽水英訳詞集』(ロバート キャンベル著/講談社)。ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、ミュージック・ペンクラブ音楽賞受賞。放送文化基金最優秀賞、日本民間放送連盟エンターテインメント部門最優秀賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月30日掲載

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。