テーマは「女による女のためのドラマ」 2020年の良質な作品を振り返る

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

いや、ほんと、面白かったんです

 続いて、スペシャルドラマ5選。

 女の沽券だの欲望だのと、こうるさいことはもう書かぬ。素直に物語が面白かった、驚いた、あるいは役者がよかったドラマを。

 DVDになりにくいスペシャルドラマだが、この年末に再放送される作品もあるので、ぜひチェックしてほしい。

●教場(フジ)

 木村拓哉主演、警察学校を舞台にしたドラマ。

 学校モノで青春群像劇の要素もあれば、ミステリー展開でもあり、奥深い作品だった。

 警察官を目指す若者たちが必ずしも清く正しい心根とは限らず、抱える心の闇が徐々に暴かれていく。

 正月早々、心がザワつき、鳥肌モノの展開に拍手喝采。特に、生徒役の林遣都や井之脇海、富田望生に川口春奈が熱演。12月29日・30日に再放送。

●微笑む人(テレ朝)

 松坂桃李主演(祝・結婚)のミステリー。

 桃李は「本の置き場所が欲しかった」という理由で妻子を殺害した銀行員役で、この事件の真相を追う週刊誌の契約記者を尾野真千子が演じた。

 一点の曇りもないエリート人生を歩む桃李が、なぜ殺害するに至ったのか。

 動機と背景を追う尾野に心を寄せていたら、最後の最後で想定外の衝撃が待っていて……。いや、ほんと、面白かったんです。

2時間モノの概念をいい意味で破壊した名作

●世界は3で出来ている(フジ)

 いわゆる「リモートドラマ」が一時期どっと作られた。

 その中で最もよかったのがコレ。林遣都のひとり芝居で、ひとり3役・3兄弟を演じ分けるという。

「寵愛されとるな、林遣都!」と思うのだが、理由はわかる。

 本当に繊細な演じ分けに驚愕したから。そしてコロナ禍で茫然としている人や喪失感を抱える人に、そっと寄り添うセリフの数々。あのときの気分に最も合致したんだよな。

●スイッチ(テレ朝)

 松たか子と阿部サダヲが元恋人の弁護士と検事という役どころ。

 このふたりが互いを茶化し合い、ディスり合い、いがみ合いで終わると思いきや、発露する欲望の衝動!

 大人の濃密なラブコメであると同時に、ちゃんとリーガルでしっかりサスペンス。

 驚きの展開と結末に、高揚感と満足感が半端ない。2時間モノの概念をいい意味で破壊した名作だと思う。

●光秀のスマホ(NHK)

「明智光秀がスマホをもっていたら」という設定で、スマホの画面のみで展開するミニドラマ(5分×全6話)。

 光秀を演じるのは山田孝之だが、スマホをいじる手しか映らず。秀吉を演じる和田正人はちょろっと映る。

 戦国武将たちがLINEでグループ会話、SNSの裏アカで罵詈雑言など、毒と茶目っ気満タンのドラマ。

 ということで、長々お付き合いいただき、感謝。数字がとれなくても、話題にならなくても、こよなく愛する人は日本のどこかに必ずいる。テレビ局に愛と期待を込めて、エールを送る。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月28日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。