【歴史発掘】「麻生家」と明治維新の陰で動いた英国「ケズウィック家」の知られざる物語〈前編〉
麻生太郎財務相は、吉田茂元総理を祖父に持つエスタブリッシュメントである。実を言うと、吉田・麻生家の系譜を見る際、明治維新の陰で動いたケズウィック家の存在を抜きには語れない。両一族の歩みと交友を辿ると、麻生氏周辺の今と未来が浮かび上がる。
ジャーナリスト・徳本栄一郎(「週刊新潮」2020年11月12日号掲載)
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「太郎と私は学生時代から親友で、その兄弟や一族も皆、よく知っている。彼は射撃が好きで、スコットランドまで狩猟をしに来た事もあったな」
「たしかに、私の曾祖父は日本の明治維新を組織した。ただ、自分は商人なので、将来のビジネスの機会に興味がある。もし日本で大きな問題が生じたら、太郎に助言を求めるだろう。副総理と財務大臣を兼ねるのは極めて強力な地位だからね」
「中国人がアヘンを燃やした時、われわれは英国政府に軍艦を送り込むよう促した。その結果、香港は割譲されたが、アヘン戦争を正当化し、過去を否定するつもりはない。あれは不幸な歴史だったし、物事の基準も今とは大分違った」
昨年7月3日の夕方、ロンドンの英国会議事堂に近い閑静な住宅街、その一画の邸宅で、老人は懐かしそうに口を開き始めた。
この季節のロンドンは、午後5時を過ぎても日が高い。窓から眩しい陽光が差し、カーペットの敷かれた部屋は物音一つせず、時間が止まったような錯覚を覚える。窓を背にしてソファに深く腰を降ろし、ステッキを置いて穏やかな語り口、その姿は好々爺という表現がぴたりと当てはまった。
老人の名はヘンリー・ケズウィック、82歳、190年近い歴史を誇る国際コングロマリット(複合企業)、ジャーディン・マセソンの名誉会長で英国有数の資産家だ。
そして彼が長年の「親友」と呼び、家族ぐるみの付き合いをしてきたのが、安倍内閣に続き、菅内閣でも副総理兼財務大臣の座にある麻生太郎であった。
政治家・麻生太郎を形容するのに、よく「政界のサラブレッド」という言葉が使われる。千賀子夫人の父は鈴木善幸元総理で、母方の祖父は吉田茂元総理、その岳父は明治の元老・牧野伸顕で、さらに遡れば「維新の三傑」大久保利通まで行き着く。また妹の信子は寛仁親王に嫁いで皇室も縁続きになっており、まさに“エスタブリッシュメント”“華麗なる一族”と言っていい。
だが吉田・麻生家の系譜を見る時、もう一つ、決して見逃せない重要な役割を果たしてきた一族がある。
彼らなくして吉田茂、麻生太郎という二人の総理は誕生せず、今の自民党、いや日本の政界も全く違ったものになったはずだ。
そして明治維新以来、両家は親から子へ、子から孫へと脈々と絆を受け継ぎ、水面下のコネクションを維持した。それがジャーディン・マセソンと、その経営を代々担うケズウィック家である。
言い換えれば、これら二つの一族の歩みを追う事で、この国の歴史と政治家・麻生太郎の今と未来が浮かび上がってくる。
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