「妻と彼女、ふたりがいるから幸せ」 不倫を10年間続けるノーテンキ夫が育った環境

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「私を女として見てるの、見てないの」と迫られて

 30歳を過ぎたころ、ヨウジさんはひとりの女性に心惹かれる。それが10年に及ぶ恋愛相手のマリさんだ。

「マリとは仕事関係で知り合いました。うちの会社のあるプロジェクトで、僕がリーダーとなり、彼女は外部から参加してくれた形です。マリはそのころ離婚したばかりのシングルマザーで、10歳の子がいました。プロジェクトが成功したので、お礼の気持ちをこめて僕から食事に誘ったんです」

 マリさんは刺激的な女性だった。絵画や文学に造詣が深く、「自由が何より大事」と公言して、何人かの恋人もいたようだ。そんな女性に出会ったのは初めてで、ヨウジさんはすっかり彼女に参ってしまったという。

「冗談で、僕もマリの愛人のひとりにしてくれないかなと言ったら、彼女はキラリと目を光らせて『恋を恋としてまっとうする覚悟がある?』と。ドキッとしました。彼女とつきあったら、男としてどうなるのか怖い半面、彼女の魅力に抗いがたいものもあって」

 ときおり彼女と会いながらも恋愛関係にはなるまいと思っていたが、あるとき彼女から「私を女として見てるの、見てないの」と迫られた。友だち関係でいたい気持ちが強かったのだが、うっかり挑発に乗ってしまう。

「女として見ているに決まってるじゃないかと答えたら、じゃあ、証拠を見せてよって。そのままホテルへ行きました。自分が火の玉になったような感じでしたね。彼女の体の中に入りながら、彼女にとりこまれていくような不思議な感覚がありました。自分の欲望が白日の下にさらされたような恥ずかしさと、それを上回る強烈な快感があって……」

 彼はハッとしたように口をつぐんだ。プライベートなことを話しすぎたと謝罪されたものの、私はもっと聞かせてほしいと頼んだ。不倫の恋の場合、身体の相性はふたりの関係を盤石にするひとつの大きな要素だからだ。

「妻とはもともと穏やかに行為をしていました。子どもたちが大きくなってからも愛情確認としてときどきしていた。そういうものだと思っていたんです。でもマリとの関係は“戦い”でした。どちらがより相手を快楽に引きずり込めるか、そしてどちらがより快感を得られるか。そこに彼女の愛を感じたし、僕もより彼女を強く欲するようになったんです」

どちらかを選ぶことは「できない」

 すぐに終わる花火のような恋かと思っていたのだが、ふたりの関係は続いていく。彼はマリさんに夢中だったが、マリさんは「外泊はダメ、絶対」と彼をコントロールした。妻のアキコさんがケガをして入院したときも、「奥さんが退院するまで会わない」とマリさんは突き放した。

「確かに子どもたちのこともあって早く帰ってやりたかったのですが、もしマリに会いたいと言われればやはり会いに行ってしまったと思うんです。その時期、マリは毎日のようにメッセージで励ましてくれた。ときには電話で長話をすることもありました。そして、ある時『あなたに会って私、他の人とデートする気もなくなっちゃった』と電話で言われたんです。相変わらず交友関係は広いし、僕は家庭持ちだから彼女が他に恋人を作っても文句は言えない。だけど彼女が僕だけを見てくれるようになった。一生、彼女を手放すまいと思いました」

 いけないことをしているのはわかっている。だが、妻とも恋人とも、彼は別れるつもりはない。不倫を続けるうち、彼は器用になったのか妻に疑われたこともないという。

 どちらも本気で愛している。だからどちらにも100パーセントで向き合っている。しかも女性はふたりとも自立心が強い。それが彼の不倫がうまくいっている秘訣なのかもしれない。どちらかを選ばなければいけない局面があったら、どうするつもりなのだろうか。

「いや、それは……絶対にできないと思います。考えたくないですね」

 彼はそれまでと違って、いきなり表情を曇らせた。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月28日掲載

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