辛口コラムニストが選ぶ2020年連ドラ「ベスト3」、3位はTBSの“3安”1位は“2人”

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 年末恒例、コラムニストの林操氏が選ぶ今年のベスト&ワーストドラマのベスト篇だ。ベスト3をお願いしたのに、選考作品はなんと10本、中にはNHKのあのドラマも。しかも、ベスト1は掟破りの○○○○、さらに前回なぜか発表されなかったワースト1は? ご覧あれ。

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アナ:非国民生活センターTV主席研究員の林操さんとあらためてチェックする2020年の連ドラ、ここからはベスト3の発表です!

林:第3位は……

●1月期・TBS系・火曜9時「恋はつづくよどこまでも」
●7月期・TBS系・火曜9時「私の家政夫ナギサさん」(当初は4月期に放送予定)
●7月期・TBS系・火曜9時「おカネの切れ目が恋のはじまり」
●10月期・TBS系・火曜9時「この恋あたためますか」

……の4本です。

アナ:おっ。すべてTBS系「火曜ドラマ」枠の4本ですね。

林:そのとおり。今回はそれぞれの作品を選んだというより、「火曜ドラマ」という枠を選んだと言った方が正確なくらい。

アナ:その理由は?

林:ワースト篇の頭で言ったように、年間ベストに推せるような作品がなかなか見つからなかったという事情が、まずはあります。正直なところ、作品ごとの出来の話をするなら、この4本のなかでも去年までだったらベスト3の候補に「~ナギサさん」が入るか入らないかくらいだったかな。

アナ:しかし、枠として一括して捉えると評価が高まる、と。

林:そういうこと。今年はなんだかホッとさせてくれたんだよ、「火曜の夜9時にTBSつけると、肩のこらない恋愛モノやってる」っていう状況が。安心・安全、そして安定の……

アナ:「3安」!

林:そうそう。「火曜ドラマ」を取り上げるにしても、去年までなら退屈な枠と切り捨て、安易・安直・安手まで付け加えて「6安」だなんて悪口を言ってたなっていう自信があるけれど、コロナの時代にゃ「安」大歓迎で、「今年の漢字」に選びたいくらい。清水寺の貫主じゃなくニッポンの前首相に馬鹿デカい筆を持たせて大書させればよかった、東京地検の前の歩道あたりで。

アナ:安倍の「安」も加わって「7安」!

林:安心・安全・安定って、TVの外の実社会でもコロナでさらに失われてるでるでしょ。世の中に不安・危険・不安定が蔓延して、じゃあ酒でも呑むかと馴染みの店に繰り出そうにも時短営業だ外出自粛だ、いや、それどころか店が潰れちゃったりしてる。そういうときにTVのなかに「3安」を感じられる居場所を設け続けたのは「火曜ドラマ」の大きな功績だよ。

アナ:4月期に当初予定の「ナギサさん」が放送できなかった際も「逃げるは恥だが役に立つ」や「恋はつづくよ~」など、過去の「火曜ドラマ」作品の特別篇が再放送されて、「火曜ドラマ」枠のムード、空気が維持されていました。

林:ホントそれ。あの枠、前の年は特A級の女優たちを主演に据えて、その割にどの作品も数字が伸びなくて苦闘してたけれど、2020年は主演女優のランクをちょっと下げたことで、番組を作る側も見る側も気楽になれた気がする。安手には安手のよさもあるんだよね。キャンプで開ける缶詰の美味さとか、停電で点ける蝋燭の明るさみたいな。

アナ:そんななかで、7月期に「~ナギサさん」に続いて放送された「おカネの切れ目~」では主演男優の……

林:あっ。その話も後でするから!

アナ:失礼しました。今回はなんだか、後回しの話が多いですね……。では、続いてベスト第2位の発表をお願いします!

林:2020年の連ドラ・ベスト第2位は……

●4~12月期・NHK・朝8時「エール」

……です。

アナ:ワーストの第2位と同じく、「プライム帯の民放連ドラ」という年間ベスト&ワースト3の対象以外からの選出ですね、NHKの「朝の連続テレビ小説」からとなると。

林:申しわけない。いや、対象枠内にだってベストに入れてもいいかなぁと迷う作品はあったのよ、「親バカ青春白書」(日テレ系)とか「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」(同前)とか「MIU404」(TBS系)とか「七人の秘書」(テレ朝系)とか。でも、突き抜けっぷりを基準で選ぶと「エール」が頭抜けてました。

アナ:「エール」、戦前・戦中・戦後を生き抜いた実在の人物の一代記という大枠だけ振り返ると、“フツーの朝ドラ”に思えてしまいますが。主人公が男性であるという点も、最近では珍しくありませんし。

林:ところが、実物を拝んでみると、良くも悪くも“フツーじゃない朝ドラ”だったのよ。たとえばホラ、ネトウヨとか“下のミギ”方面が騒いでたでしょ、“古関裕而本人はしていない類の戦争体験を勝手に盛り込んだブサヨ反日ドラマだ!”とか。

アナ:ありましたね、そんな騒動が。無事これ名馬のNHKにしてはずいぶん踏み込んだなぁと、私も感じました。

林:無事これ名馬というより、特に政治がらみとなると報道でさえ“無難のためなら死んでもいい”のが今の“国営放送”でしょ。それが「エール」の戦争描写ではあそこまで大胆に勇み足を踏み込んだ。あの蛮勇は買っていい蛮勇だと、ワタシは思います。“報道ができないのなら芸能がやる!”だったのかどうか。

アナ:ただ、“歴史モノの大河ドラマならともかく、近現代モノの朝ドラで実在の人物の言動をあそこまで大きく改変していいのか”という疑問は出ていました。

林:そこも国営放送の勇み足だよね。古関裕而ならぬ「古山裕一」が作曲して唄わせる歌は全部、古関裕而の作品そのまんま。これは真面目に見ている真面目な人には気持ちが悪かったでしょう。

アナ:林さんは気にならなかった?

林:「エール」が駄作だったらツッコミどころにしてたね。ただ、エールは現実の古関裕而と虚構の古山裕一をスパッと潔く切り分けるのではなく、虚実を曖昧に誤魔化すことで、表現の自由度を大いに上げた。これはもっと褒められていい。

アナ:戦争体験シーンを“追加”しただけではなく、芝居がミュージカル仕立てになったりもして、確かに自由なつくりになっていました。

林:そうそう。民放もNHKも、現実もTVも、みんな閉塞して窒息しつつあるニッポンで、よりによってお堅い国営放送がお堅い「朝の連続テレビ小説」でガラスの檻を反則技で蹴破るような挙に出た。そのドブの底から飛び出して雲の上まで突き抜けるようなルール違反、お約束破りを、ワタシは買うのよ。

アナ:なるほど。何十年も前からNHKに批判的で、ここ数年は「NHKから非国民を守る党」を結党すると息巻いていた林さんとは思えない激賞ですね。

林:いやいや、国営放送に言いたいことは今でも山ほどあるんだけれど、今日のところは「エール」に免じて勘弁しといたるわ……というところ。むしろ、こういう“正しいルール違反”“意味あるお約束破り”が民放からますます出てこなくなってることが残念だなぁ。みんな苦しいコロナの年だから、これ以上は言わないけれど。

アナ:民放はコロナ不況で広告収入が大きく減っていて、今回の前篇で林さんが指摘していたとおり「貧して鈍する」状況ですからね。

林:コロナ危機でも去年とたいして変わらぬ受信料≒放送血税が転がり込んでくる国営放送ばかりが元気になるのは癪だけれど、「だからアンタらもおとなしくしてろ」と言うつもりはまったくありません。視聴者からもらったカネの分の仕事は、視聴者に向けてきっちりしてもらわないと。

アナ:では、いよいよ2020年の連ドラ・ベスト1の発表にいきましょうか。

林:はい。今回のベスト1は……

●戸田恵梨香と松坂桃李の結婚

……です!

アナ:えっ? ドラマではなく現実……ですか?

林:そう、ドラマではなく現実。正直なところ、今年、現実以上の力をもったTVドラマにワタシはめぐりあえなかった。そういうことです。

アナ:う~ん、そういうことですか。しかし、言われてみれば私もそうかもしれません。2020年は文字どおり「事実は小説より奇なり」の年でしたからね。戸田恵梨香さんと言えば、林さんは以前、TBS系「大恋愛~僕を忘れる君と」での戸田さんの演技を熱烈に称賛されていました。

林:あれは芝居が現実離れしているくらいリアルで凄かったからだけれど、今度は私生活がリアルなのに現実離れしてて凄いんだからなぁ。やられました。大! ドン! デン! 返し! ドラマならハッピー・エンディングだけれど、現実は結婚生活のスタート、それもスター同士の結婚ゆえ、このさき波乱もあるでしょうが……みたいな苦い話は、今はなしにするよ。めでたし、めでたし。

アナ:戸田さんはNHKの「スカーレット」で朝ドラの主演も務めましたが、こちらについては。

林:ご祝儀代わりに批評もなし、としますわ。ただ、「スカーレット」には、連ドラ・ベスト1とは正反対のワースト1との関わりもあって……

アナ:あっ! ひょっとしたらワースト1もドラマではなく現……

林:わっ! ストップ、ストップ! みなまで言うな、みなまで言うな! ……そうなんです、前篇で先送りして最後の最後に発表すると言っていた2020年・連ドラのワースト1は……

●伊藤健太郎事件

……なんです。

アナ:やっぱり。これもまたドラマではなく現実、だったんですね。これまた、戸田さんと松坂さんのご結婚とは違う意味で、どんなドラマより力のある現実でした。伊藤さんは「スカーレット」で戸田さんと共演されていましたよね。

林:だから皮肉だなぁ、と。ベスト1に戸田恵梨香の結婚、ワースト1に伊藤健太郎の逮捕を挙げるくらいなら、いっそ「スカーレット」をベスト&ワースト1に選ぼうかなと思ったくらい。それをやったら「スカーレット」、というよりドラマ全般、フィクションすべてに対する非礼になるので止めたけれど。

アナ:林さんは、伊藤さんを一躍有名にした日テレ系の「今日から俺は!!」も高く評価されていました。

林:ただ単純に好き、というレベルでも忘れられない作品だから、伊藤クンの轢き逃げと逮捕は激しく残念だけれど、まぁワイドショーに週刊誌、その他いろいろがあそこまで糞味噌に彼を叩いたことは激しく不愉快だったな。ワースト1の案件名を「伊藤健太郎の轢き逃げ・逮捕」ではなく「伊藤健太郎事件」としたのは、あの報道未満の馬鹿騒ぎまでをワーストに含めたかったからだよ。

アナ:伊藤さんの所属事務所がいわゆる大手ではないから……という“伊藤批判に対する批判”もありましたね。

林:♪弱い者達が夕暮れ ♪さらに弱い者をたたく……っていうブルーハーツの歌そのまんまの惨状だったもん。でも、小渕だ甘利だ下村だなんて連中でさえフツーに政治屋を続けさせてもらえる国なんだから、伊藤クンにはきちんと過ちを償ったうえで芝居の世界に戻ってきてほしいと切に願ってます。

アナ:すみません、私はいま本当にあの林操さんと話をしているんでしょうか。林さんが優しすぎる……

林:安倍より頭が悪く麻生より口が悪く菅より性格が悪いと、知り合いの政治記者からもお墨付きをもらってるワタシですが、戸田恵梨香の結婚は寿ぎたいし、伊藤健太郎の事件は嘆きたいよ。

 めでたや恵梨香
 かなしや健太郎
 にんじんじゃなくて
 にんげんだもの

……って筆と墨で色紙に書いて最後に「みさを」と署名したいくらい。

アナ:そうでしたか、失礼しました。では、2020年の連ドラ・ベスト&ワースト3はこれにて発表が終わりました。林さん、来年もよろしくお……

林:いやいやいやいや、2020年の連ドラ・ワースト1は、まだ終わってません。続きがあります。

アナ:ええっ。

林:ワースト第1位はあと4件、

●三浦春馬の死
●藤木孝の死
●芦名星の死
●竹内結子の死

……です。

アナ:……言葉もありません。皆さん、TVドラマでよく見かける方ばかりで、三浦さんは、ベスト3に入った「おカネの切れ目が恋のはじまり」に出演されていた間に亡くなられました。

林:ワタシも、身近で世話になっていた若い人が同じころ、家族を残して自ら死を選んだということがあって、今でもすべてが遠い話に思えず、まだこれしか言えないよ──ゆっくりお休みください。

アナ:……

林:そして蛇足。2021年の連ドラ・ワースト1の対象が、現実ではなくドラマであってくれますように。

【了】

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月27日掲載

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