天皇皇后両陛下の通訳も務めたアルモーメンさん 苦学生時代を過ごしたイタリアンレストランとは

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 好きな飲食店や好物の話を聞けば、その人の人となりが解るというもの。ゆえに「名は体を表す」ならぬ、「食は体を表す」なのである 。この企画では、外国籍の著名人の方々にご登場頂き、行きつけのお店をご紹介してもらいます! 意外なお店のチョイスに驚くこと必至! 彼らの食に対する感性と経験が垣間見えちゃうんです。第70回は、アルモーメン・アブドーラさん。今回は「オステリア」に伺いました!!

 人に歴史あり。かつて天皇皇后両陛下(現・上皇上皇后両陛下)、パレスチナ自治政府のアッバス議長などの通訳をつとめ、今は東海大学教授で日本語日本文学博士として教鞭をとる。華麗なる経歴を持つ“モーメン”ことアルモーメン・アブドーラさんにも、下積み時代があった。

「1996年頃、日本に来てだれも知り合いがいない中、バイトをしていたこのお店で育てられたんですよ」

 西国分寺のイタリアンレストラン「オステリア」の前身は酒屋。その時代から、“モーメン”はバイトに精を出していた。

「お酒を飲んだことがないのに、酒屋の店番をしていたんですよ! だけど、この時代に得たものは学校に通うだけじゃわからないことだらけ。言葉の使い方、人との付き合い方の、まさしく実践でしたね」

 それだけではない。先代のオーナーは、文字通り“恩人”なのだ。

「どうやって学費を払うか考えもないまま学習院大学を受験したら、合格しちゃったんです。お金がなくて困っていたときに、オーナーがお金を貸してくれて。いまの私があるのは、このお店のおかげです」

 2代目オーナーは、中学生時代から苦学生モーメンとともに店で切磋琢磨してきた間柄。一緒にお笑い番組を見て、モーメン先生、パイ投げや落とし穴で大いに笑ったそう。

 そんな旧友がこの日用意したのは、冷菜の盛り合わせにマルゲリータ、ペスカトーレ、自家製ミートソースのスパゲッティ、そして辛いトマトソースのペンネ。薪をくべて、500℃まで熱せられた窯で焼いたピザの生地はモチモチ。ニンニクたっぷりのトマトソースはクセになる。通常は合挽肉を使うミートソースは、イスラム教徒のモーメン先生も食べられるように、牛肉のみで調理。

「はじめてのミートソースですよ!」

 と先生、うれしそう。すっかりごきげんで、ピザを片手に、

「偽イタリア人だと思われない?」

 なんておどけてみせる。歓談は盛り上がる一方です。気のおけない仲間がいる、最上の食卓ですね。

週刊新潮 2020年12月24日号掲載

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