NHK「おちょやん」…朝の連ドラに必須の厄介な父親、したたかなヒロイン、ドギツい台詞
虜にされたオープニング
始まったばかりのNHK朝の連ドラ「おちょやん」。まだまだ序盤だが、「赤貧洗うが如し」の生活ぶりが展開され、普段なかなか聞けないキツいの台詞が交わされている。
猫の後頭部は人を魅了する。ほんわり丸くて温かくて、手のひらで包み込むようにそっとかぶせると、心のとげとげしさがやわらぐ(気がする)。
猫の後頭部をこよなく愛する者としては、朝ドラ「おちょやん」のオープニング映像を早送りはできぬ。
イラストレーター・犬ん子が描く「猫おちょやん」の後頭部が、寒い朝でも体温ちょびっと上がるくらいカワイイからだ。猫だけでなく雄鶏やネズミも。
ほっこり&極彩色の鳥獣戯画を愛でる。まだ始まって間もないけれど、前作がかなり苦痛だったので、今は癒しの時間になりつつある。
ドタバタ喜劇の舞台挨拶からスタートしたので、おおいに不安はあった。
朝ドラに関しては、物語の世界にどっぷり浸かりたいので、登場人物がやたらと解説したり、カメラ目線で訴えかけられたりすると興ざめする。
急にコントになったり、歌謡ショーになったり、ファンタジーや夢オチのスピンオフを入れこんだりと、主軸の物語そっちのけでエンタメ要素の寄せ集めになると、こちらのテンションはダダ下がり。
毎日15分、現実からの逃避行なのだから、その世界の中で人物を芝居できっちり動かしてくれよ、と思う。話題性欲しさに、物語や人物描写をおろそかにする。そんな朝ドラは正直、いらん。
で、懸案の「おちょやん」。
スタートに一抹の不安を覚えたものの、私の大好きな「赤貧洗うが如し」の生活が始まって、胸をなでおろした。
ヒロイン・千代役の毎田暖乃がいじらしいだけでは終わらない、口の減らないこまっしゃくれた子供を見事に演じた。
母親を早くに亡くし、幼い弟を守り、飲んだくれで甲斐性なしのクズ父(トータス松本)を支え、豚のエサであるパンの耳を喰らい、学校に行けず文字を読めない……そういうの大好き。
不運や不幸にヨヨヨと泣くだけでなく、同時に奥歯をぐっと噛みしめて、口の中の血の味を忘れないヒロインが好物だからね。
「ひとつだけ言うといたる」
そして、朝ドラに必須の厄介な父親だが、「男尊女卑の父権主義者」や「お人好しの酒飲み」などが主流の中、久々に「根っからのクズ」が来たなあとほくそ笑んだ。
しかも再婚相手として連れてきた元仲居の女・栗子(宮澤エマ)が強烈な自己中&自己愛をぶちまける。
隣人から「女郎まがいのどスベタ!」と言われちゃうこうばしい感じな(スベタって久しぶりに聞いたわ)。
宮澤は三谷幸喜の映画「記憶にございません!」で、無表情がそこはかとなくおかしい凄腕通訳の役を演じて、おおいに笑いを誘った記憶がある。
トータスの朗らかな無神経と無節操、エマのとりつくろわない堂々とした腹黒さは観ていておかしい。おかしかったのだが、千代にとっては災難。
親の再婚で居場所を失う子供の心情に、胸がつまる。弟は幼すぎて、亡き母の思い出がそう深くない。
クズ父はどスベタ連れてきちゃって、亡き母を忘れようとしている。そして自分だけ排除され、奉公に出される。あまりに残酷な境遇に、私も奥歯を噛みしめる。それでも千代は前を向く。
「ひとつだけ言うといたる。うちは捨てられたんやない。うちがあんたらを捨てたんや。さいなら!」
私が朝ドラに欲していたのは、こういうシーンなんだよなぁと改めて思った。
物語は進み、芝居茶屋・岡安の女中見習いになった千代。贔屓客の頭にふんどし落として大目玉、ライバルの芝居茶屋へのおつかいに行くもけんもほろろに門前払い。
失敗の連続で、女中頭のかめ(楠見薫)や手厳しい女将(篠原涼子)にねちねちいびり倒されるかと思いきや、案外早くなじんじゃって。最近はそういうシーンがウケないのか、実にあっさり。
拒絶と人格否定とハラスメントがえらい長く続いた「ごちそうさん」が懐かしく思える(杏とキムラ緑子の冷戦ね)。
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