「巨人」FA大型契約で93億円超…「梶谷」「井納」の気になる来季の“合格ライン”は?

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 大野雄大(中日)、山田哲人(ヤクルト)、増田達至(西武)といった目玉と見られていた選手が早々に残留を表明し、例年と比べて静かなFA戦線となっているが、その中で唯一、積極的な動きを見せているのが巨人だ。梶谷隆幸、井納翔一とともにDeNAからFA宣言した二人の獲得に成功。ドラフトの時にも課題と言われながら有力選手が獲得できなかった外野手と、メジャー移籍が濃厚な菅野智之の穴を埋める先発候補を補強し、確実に戦力はアップした印象を受ける。

 そして、他球団を驚かせたのはその契約内容だ。推定で梶谷は4年総額約8億円、井納は2年総額2億円規模といわれており、ともに今シーズンから大幅アップの大型契約となったのだ。巨人はこれまでも12球団で最も多くFAで選手を獲得しており、大型契約も少なくないが、果たして金額に見合う働きを見せているのか。その“費用対効果”について振り返りながら、梶谷、井納の合格ラインについても探ってみたい。

 これまでに巨人がFAで獲得した人数は梶谷と井納を入れて28人。過去10年の顔ぶれと、入団時の契約内容(スポーツ新聞の報道などによる)をまとめてみると以下の通りとなっている。

村田修一:2年総額5億円
杉内俊哉:4年総額20億円
大竹寛:3年総額5億円
片岡治大:2年総額3億円
相川亮二:単年7000万円
金城龍彦:単年4000万円
脇谷亮太:単年2400万円プラス出来高
山口俊:3年総額約7億円
森福允彦:3年総額約4億円
陽岱鋼:5年総額15億円
野上亮磨:3年総額4億5000万円
炭谷銀仁朗:年俸1億5000万円の3年契約
丸佳浩:5年総額25億5000万円

 キャリア晩年だった相川、金城、脇谷の三人以外は十分に大型契約と呼べるものと言えるだろう。さらに、各選手の契約期間中の成績を見てみると、このようになる。

村田修一(2年):288試合294安打37本塁打145打点2盗塁
杉内俊哉(4年):91試合39勝22敗0セーブ0ホールド
大竹寛(3年):50試合18勝16敗0セーブ0ホールド
片岡治大(2年):239試合193安打16本塁打68打点45盗塁
山口俊(3年):60試合25勝14敗1セーブ1ホールド
森福允彦(3年):39試合1勝3敗0セーブ9ホールド
陽岱鋼(4年):322試合221安打24本塁打97打点7盗塁
野上亮磨(3年):38試合5勝6敗1セーブ4ホールド
炭谷銀仁朗(2年):114試合51安打7本塁打33打点0盗塁
丸佳浩(2年):263試合276安打54本塁打166打点20盗塁

 文句なしで主力としての活躍を見せた選手となると、村田、杉内、丸の三人になる。ただ、村田も一年目はわずか12本塁打、打率.252と苦しんでおり、杉内は3年連続で二桁勝利をマークしたものの、4年目は故障もあって6勝に終わっている。一方、丸は5年契約の2年が終わった段階であり、残りの3年間成績を維持できるかは未知数と言わざるを得ない。

 大竹は、巨人入団6年目となる2019年以降中継ぎとして復活を見せ、山口は3年目に最多勝を獲得するなど活躍を見せているが、大型契約に見合った成績と評価するファンは少ないのではないか。くわえて、片岡、森福、陽、野上、炭谷に至っては、一軍の戦力としては考えられないような不十分な成績に終わっている。この10人に投資した総額で93億円を超えるが、費用対効果を考えると、とてもではないが、成功と言うことはできないだろう。

 では、梶谷と井納についてはどの程度の成績を残せば「合格ライン」と言えるのだろうか。例年通りの143試合が行われた2019年の実績をもとに、同程度の年俸でポジション、タイプが重なる選手をピックアップしてみると以下のような顔ぶれとなる。

■梶谷との比較対象
西川遥輝(日本ハム:2019年の年俸2億円)
2019年成績:142試合158安打5本塁打41打点19盗塁 打率.288

大島洋平(中日:2019年の年俸1億8000万円)
2019年成績:143試合174安打3本塁打45打点30盗塁 打率.312

■井納との比較対象
野村祐輔(広島:2019年の年俸1億2000万円)
2019年成績:18試合6勝5敗0セーブ0ホールド 防御率4.06

石川歩(ロッテ:2019年の年俸1億1500万円)
2019年成績:27試合8勝5敗0セーブ5ホールド 防御率3.64

小川泰弘(ヤクルト:2019年の年俸9200万円)
2019年成績:26試合5勝12敗0セーブ0ホールド 防御率4.57

 梶谷は西川、大島と比べると、長打力があるのが魅力の選手である。それを考えると打率は3割には乗らなくても、2割台後半をキープして15本塁打、50打点をクリアできれば、十分年俸に見合う働きということは言えそうだ。来年だけを考えれば、決して難しい数字ではないだろう。

 一方の井納は同じ右の先発投手を見てみると、現在1億円前後の年俸でも、二桁勝利を挙げられていないことが分かる。ただ、FA権を行使して残留したという事情がある野村は、翌年の年俸は現状維持となっているが、石川と小川はいずれもダウンとなっている。それを考えると、やはり25試合以上に登板して8勝以上、防御率は3点台というのが目安となりそうだ。

 梶谷の「2割8分、15本塁打、50打点」、井納の「8勝、防御率3点台」という数字は両者の実力を考えれば、現実的な目標のように見える。ただ、梶谷は4年、井納は2年続けて、パフォーマンスを維持できるかというのが高いハードルとなりそうだ。そして、陽や野上のように1年目に躓いて、そのまま立ち直れていない選手がいることを考えると、やはり来年が大きな勝負の年となることは間違いない。打倒ソフトバンクを掲げる巨人の起爆剤となれるのか、それとも高額年俸をドブに捨てることになるのか、シーズン序盤から二人のプレーぶりに注目したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月25日掲載

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