新型コロナで注目される「朝外食」 「焼肉ライク」「かっぱ寿司」も参入、救世主になるか
新型コロナ第3波の到来で、東京都の飲食店には3度目となる営業自粛要請が出された。22時以降に営業ができなくなるのは、店にとっては大きな痛手である。かき入れ時の営業ができないとなれば、狙うは“朝”――。「朝外食」の現状を、流通アナリストの渡辺広明氏が取材した。
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1人に1台のロースターが用意され“1人焼肉”が楽しめることが売りの焼肉チェーン「焼肉ライク」。こちらの新橋本店では、朝7時から11時までの時間帯に「朝焼肉セット」を提供しています。バラカルビにごはん、ウインナー、みそ汁、海苔、生卵または納豆がつき、お値段は500円(税抜)。なかなかお得です。
同店では「朝ごはんメニュー」を今年8月から始めたそうで、ほかにも上記セットの味噌汁をコムタンスープに変更できるセットメニューや、「冷やし牛だし茶漬けセット」(税抜240円)なども用意されています。サラリーマンの街・新橋ですから、出勤前の朝ごはん需要を見込んでいるのでしょう。
朝焼肉こそ珍しいですが、外食産業の「朝」への進出は、ここ数年で増加していました。NPD Japanのデータによれば、外食・中食市場の「朝」の市場規模は、2014年の9000億円台から19年には1兆円台に拡大。コロナ禍で飲食業界そのものが打撃を受けたので、20年の数字がどうなるかは分かりませんが、朝外食は拡大の方向に進んでいると見て間違いないでしょう。イチロー選手のルーティンだったという「朝カレー」や、「朝ラーメン」を出す店も増えています。
これまで朝食メニューを出していなかったお店が、積極的に朝に進出していると思しき例は他にも見受けられます。
たとえば「かっぱ寿司」は、この6月から「朝食メニュー」を始めました。もともとは一部店舗だけの試験的な取り組みが徐々に増えていき、この11月には39店舗に。需要の高さがうかがえます。提供するのは朝寿司ではなく、酢飯を使った「いくら・おにぎりセット」(税抜390円)や「朝の海鮮丼セット」(税抜490円)など、かっぱ寿司らしいラインナップです。これに「うどん」や「味噌汁」、プラス50円で「ラーメン」をつけることができますから、朝でもしっかり食べたい需要にこたえることができます。
朝マックから牛丼、スタバからコメダへと…
お店としてもランチやディナーほど手間がかからないというのも、朝外食に力を入れ始めた要因のひとつかもしれません。喫茶店のモーニングを想像してもらえると分かりやすいのですが、基本的にはトーストとコーヒー、サラダなど、調理が比較的簡単なメニューで、済むわけです。メニューの数も、昼や夜より少なくて問題ありません。
日本で「朝外食」の文化を切り開いたのは、おそらくマクドナルドの「朝マック」でしょう。マクドナルドが「ブレックファーストメニュー」をはじめたのは1985年。その後、牛丼チェーンが男性サラリーマンをターゲットにした朝の定食メニューを拡大させ、また96年にスターバックスが日本に上陸したことでカフェ文化が定着し、女性も朝食を外で食べるように。そして、名古屋発祥のコメダ珈琲が03年に関東へ、06年に関西へ進出したことで、名古屋のモーニング文化が全国的に広まりました。コメダは都心でも店舗を増やしていますから、今後は、高齢者層もより朝食を外で済ませるように……というのが、私の考える「朝外食」の沿革です。
これには日本の社会構造の変化が影響もしていると考えられます。白いご飯にみそ汁、納豆に焼き魚という古くからの日本の朝ご飯は、料理に手間がかかります。3世代同居など、世帯の人数が多かった時代であればまだしも、核家族化が進んだ現代に、わざわざ手間のかかる朝ごはんを作る過程は少なくなりつつあります。一人暮らしであれば、なおのことです。
それであれば、いっそ朝ごはんは外で――という意識が生まれました。
海外旅行をされた方ならお分かりになると思うのですが、タイや台湾といった国では、朝食は外でとることが一般的です。これらの国々は、女性の社会進出が進んでおり、共働きが珍しくありません。ビジネスパーソンの朝は忙しいのはどの国も同じですから、朝食は自炊ではなく外食で、という文化が生まれていったそうです。
日本でも女性の社会進出は進みつつありますから、こうした点からも、朝外食は今後定着していくことでしょう。
コロナ禍によって、外食チェーンの店舗閉鎖が相次いでいるとも報じられています。もしかすると「朝外食」が、この苦境を乗り越える救世主になるかもしれません。