「ガソリン車禁止」で中国が得る利益 自動車関係者に打撃、「スズキ」会長「努力はしますが…」

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 エコの裏には、エゴがあり……。政府による「ガソリン車」販売禁止方針が衝撃を呼んでいる。脱炭素社会実現のため、あと15年ほどで電気自動車などへと切り替える、というものだが、美名の陰には、ドロドロ、ギトギトの私欲と「利害関係者」の存在が……。

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「報道の後、ホンダの下請けの2社が、慌てて相談に来ましてね」

 と言うのは、さる中小企業専門の企業コンサルタント氏である。

「エンジン部品を作っている、従業員100人程度の会社です。ホントにすべて『ガソリン車』から置き換えられるのか。そうなったら、ひとたまりもない。何とかできないか、と」

 両社とも半世紀を生き抜いてきた会社だというが、

「もしホントなら、今回は社員を3分の2から半分くらい減らさないと保(も)たないかも、とまで言ってましたね。うち1社の社長は2代目で、息子に後を継いでほしかったけど、サラリーマンにしようかな、とこぼしていました……」

 戦後日本の製造業を支えてきた自動車産業。その生死を左右しかねない事態が起こっている。

〈脱ガソリン車 2030年代半ば〉

 12月頭、新聞の1面に躍った見出しである。経産省が、2030年代半ばまでに国内で販売するすべての新車について、ガソリン車を禁止。「電動車」に絞る方針を固めた、というものである。電動車とは、モーターを搭載し、電気を使って走行する車の総称だ。EV(電気自動車)をはじめ、モーターとエンジンが併存するHV(ハイブリッド車)などがこれに当たる。

 しかし、昨年、日本で販売された乗用車の新車のうち、電動車の割合は4割に過ぎない。これを15年ほどで「10割」にする、というのだから、如何にラディカルな目標なのか、わかるであろう。

 12月4日、菅総理も臨時国会閉会時の記者会見で、「脱炭素」の方針を強調したが、なぜ政府はかくも高い目標を掲げたのか。

「政府は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると宣言しています」

 と解説するのは、さる経済ジャーナリストである。

「日本全体のCO2排出量のうち、自動車からのそれは16%。ここを絞りたい、という理由がひとつ。そして何より、世界の自動車産業の潮流が電動車、もっと言えば、EVになっている。その動きに乗り遅れるな、というわけです」

 実際、米カリフォルニア州、イギリス、フランスなども既に同様の「脱ガソリン車」政策を実行して久しい。何より市場は敏で、EVのリーディングカンパニー、米テスラ社は販売台数が年間37万台弱に留まるにもかかわらず、この7月、株の時価総額で、1千万台を販売するトヨタ超え。一時は4500億ドルと2倍以上にまで引き離すほど期待感が満ちているのである。

「今回はひとまずHVは販売OKとしましたが、HVでもCO2は出る。政府関係者の中には、HVすら敬遠し、“100%EVじゃなきゃいけない”と強硬に主張する向きもいる。今後、EV以外への厳しい規制へと姿勢を強めていくのは必至でしょう」(同)

電機メーカーの轍

 ちなみに昨年、日本で新車販売された乗用車は、EVに限ってみれば、その割合は1%を下回る。しかし、「エコ」と「グローバル」という近年の2大トレンドを掲げられれば、この流れに逆らうことはなかなか難しいだろう。

 その先に現れるのはどんな未来なのか。

「EVに向けた支援は大歓迎ですが、ガソリン車を廃止するような方針には抵抗があります。政府は産業で働く人の雇用をどのように考えているのでしょうか」

 と憤るのは、元内閣官房参与の加藤康子(こうこ)氏である。

 加藤氏は産業遺産情報センター長を務めるなど日本の「ものづくり」の歴史に明るい。

「日本で自動車産業に従事するのは540万人。総労働者数の8%程度をも占めています。そのうち、製造に関わるのは90万人。多くは大手メーカーではなく、部品工場で働いている。地域経済を支えているわけです。それを10年少しで急速にEVへと転換してしまえば、地域経済ごと吹っ飛んでしまいます」

 これには説明が必要だろう。ガソリン車の部品総数はおよそ3万点。しかし、EVはより構造が単純なため、うち1万点の部品が要らなくなる。そのためドイツでは、EV化が進めば、10年間で自動車関連産業の労働者のおよそ半分が職を失うとの報道もあるほど。

 単純な計算だが、日本でも540万人に影響が及ぶとして、その家族も含めれば、一世帯の平均人数は2・4人だから、およそ1300万人に路頭に迷う危険性が生まれるわけだ。

「そうした長年の蓄積が工業立国の土台を支えています。政府はまず、日本経済を支える彼らの生活をどう考えているのか」(同)

 雇用に危機が訪れるとしても、それがEVに転換できれば、問題はないだろう。しかし、事はそう単純ではないようである。

「ガソリン車の構造と、EVの構造には、大きな違いがあるのです」

 とは、早稲田大学大学院の長内厚教授(経営学)だ。

「従来のガソリン自動車の場合、部品と部品が相互に影響し合い、互いに調整しながら、ひとつの機能を成り立たせている。これをインテグラル型のアーキテクチャと呼びます。その巧みな調整に必要なノウハウは、言葉や数値で表せないような職人技やノウハウであり、容易に真似はできない。だからこそ、例えばトヨタはその技能を伝承するために、ものすごくしっかりと教育、研修を行うわけです。それが日本の企業文化とマッチし、そのまま“強み”となっていました」

 他方、電気モーターをソフトウェアで制御するEVは、

「部品点数が減り、複雑性が低い。その上、部品と部品が独立し、相互の作用も少ない。これをモジュール型のアーキテクチャと呼びます。比較して組み立てが単純なため、極端に言えば、自動車メーカーでなくても、車が作れるようになってしまうのです」

 そのため、ガソリン車の製造工程で失われた雇用を、EVの工程が吸収する、ということにもなりにくい。

「同時に日本企業の“強み”も発揮しにくくなる。かつて世界のトップを走っていた日本の電機メーカーが凋落して久しいですが、これも原因は、エレクトロニクス製品が急速にモジュール化し、インテグラルの強みを活かせなくなったから。EV化を急速に進めれば、同じ轍を踏むことになってしまうのではないでしょうか」(同)

 逆を言えば、世界の自動車業界のEV化とは、実は、その日本の強みを包囲し、自らを優位に立たせることが裏の目的ではなかったのか、との見方もあるという。

「かつてスキーのノルディック複合で、日本選手が世界を席巻していました」

 と述べるのは、経済ジャーナリストの井上久男氏。

「その時、ヨーロッパ諸国は、日本選手が得意だったジャンプの点数を低くするなど、自らに有利なルール変更をして復権した。それと似たようなことが、自動車を巡って国際社会で起きていると言えるでしょう。内燃機関を持つガソリン車やHVについては、トヨタはじめ日本メーカーはまだ強いのですが、EVになれば、ほとんど横並びの状態。他国のライバルや中国などの新興企業でも勝てる可能性がある。EVを世界のスタンダードにするよう、ルールチェンジを狙ってEV化が進められてきた、という側面もあると思います」

 付言すれば、EVに搭載されるリチウム電池。この原材料となるレアアースのコバルトは、コンゴが世界最大の産出国だ。

 前出・加藤氏が言う。

「ここに積極的に投資し、押さえ込んでいるのが中国。車が電池産業になれば、つまり、EV化が進めば進むほど、中国は利益を生むことになる。日本はその罠にはまっているのではないでしょうか」

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