6年目に突入した「じゅん散歩」 高田純次が語った“散歩の極意”と“新型コロナ”
「ジョージ・クルーニーです」
今でも鮮明に憶えている人もいる。19年3月に放送した「柏の葉キャンパス駅」(千葉県)の回に登場した男性だ。駅の近くには東京大学のキャンパスがあり、番組のテーマの1つだった。
「歩いていると、ズボンに『ハーバード』って書いてある坊主頭の青年を見つけたんです。『東大が近くにあるのにハーバードなの?』ってツッコんだら、本物の東大生、それも凄い研究をしていて、間もなく博士課程を修了するというんですよ。出身は関西と言うから、『なんで東大に来たの?』って質問しました。関西には阪大も京大もあるのに、どうして東大なのって意味で訊いたんですけど、彼は『新幹線で来ました』って答えてくれてね(笑)。そうじゃないよって皆で大爆笑したんだけど、ああいう出会いは本当にいいよね」
「じゅん散歩」のファンなら、店などに入る際、高田さんが披露する“自己紹介”を楽しみにしているだろう。
「テレビ朝日の『じゅん散歩』で来た大隈重信という者ですが」という具合だ。武者小路実篤や国木田独歩といった明治の文豪が登場したかと思えば、福原愛(32)、ボブ・サップ(47)、ハリソン・フォード(78)という名前が脈絡なく登場することもある。
「あれは自分のテンションを上げるために言っているので、皆さんが笑ってくれても、笑わなくても、どっちでもいいんです。時々は前もって『街にゆかりのある著名人』を調べることもありますけど、あんまり知識を詰め込むと、頭の中がそればかりになっちゃいますからね。ぼんやりした状態のまま歩きだして、店に入った瞬間に閃いた人名を口にしています。ゴマの名店なら、『ゴマの蠅です』でいいし、府中なら競走馬の名前とかね」
絵を描く喜びと苦しみ
ロケの楽しみを質問すると、「甘いものを食べられて、昼食代が浮くことかな」と大笑いした。その場にいた番組スタッフも爆笑すると、絶妙の呼吸で本題に戻る。
「70年生きていても、初めて訪れる街も多く、それが楽しいです。毎年訪れる街でも、必ず変化している。びっくりするほど変わっていますよ。僕が生まれたのは調布市の国領町ですけれど、京王線の駅も地下化されて、面影はありません。でも、僕の記憶と全く違う国領町が面白い。そういう体験が1番の楽しみですね」
番組の最後は、高田さんが描いた絵が紹介される。月曜から木曜までは、その日に登場した印象的な人物の似顔絵、金曜は街の風景画となっている。
高田さんは東京デザイナー学院グラフィックデザイン科を卒業しており、宝石販売店で営業とデザイナーの“二足のわらじ”を履いた過去を持つ。要するに絵に関しては“プロ”だったのだ。
18年10月に番組はノルウェーのオスロを訪れ、高田さんが美術館でムンクの代表作「叫び」と対面した。高田さんのレポートから、絵画に関する該博な知識を感じ取った視聴者も多かっただろう。
「長年、絵筆は握っていなかったんです。番組のため久しぶりに描いたんですけどね、しばらくすると楽しくなりました。でも似顔絵と風景画が逆だったら、早々とギブアップしたと思います。似顔絵はモデルの顔に集中すればいいですけど、風景画は大変なんです。場所を決めるのも一苦労だし、道路や建物、木や花々といった要素が多いでしょ。構図の中に丁寧に組み込んでいく必要があるから時間がかかるんです」
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