「広島」若手の出遅れは致命傷…「中村奨成」「小園」のコンバートを進めるべき根拠

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 セ・リーグ三連覇から一転して、昨年は4位、今年は5位と二年連続のBクラスに沈んだ広島。主力が相次いで流出するイメージが強い球団だが、現在は少し状況が異なっている。一昨年のオフには、二年連続MVPの丸佳浩がFAで巨人に移籍したものの、それ以外の主力選手は流出を免れている。昨年、今年のオフにFA権を取得しながら、最終的にチーム残留を決めた選手の名前を挙げると、野村祐輔、会沢翼、菊池涼介、田中広輔、松山竜平と錚々たる顔ぶれとなる。2009年にマツダスタジアムが開場したことをきっかけに観客動員数が大幅に増え、『カープ女子』という言葉が流行語にもなるなど、以前の“貧乏球団”というイメージは確実に払しょくされたと言えるだろう。

 しかしながら、それでもチームの成績が下降していることに、現在の球団の問題点が表れている。一つ目は高額年俸で残留した主力選手が軒並み成績を落としている点だ。残留した選手の過去3年の成績をまとめると、以下のようになる。

野村祐輔(来季32歳)
2018年:20試合7勝6敗0セーブ0ホールド 防御率4.22
2019年:18試合6勝5敗0セーブ0ホールド 防御率4.06
2020年:13試合6勝3敗0セーブ0ホールド 防御率4.58

会沢翼(来季33歳)
2018年:106試合96安打13本塁打42打点0盗塁 打率.305
2019年:126試合104安打12本塁打63打点2盗塁 打率.277
2020年:79試合61安打7本塁打36打点2盗塁 打率.266

菊池涼介(来季31歳)
2018年:139試合130安打13本塁打60打点10盗塁 打率.233
2019年:138試合143安打13本塁打48打点14盗塁 打率.261
2020年:106試合102安打10本塁打41打点3盗塁 打率.271

田中広輔(来季32歳)
2018年:143試合150安打10本塁打60打点32盗塁 打率.262
2019年:97試合60安打3本塁打27打点8盗塁 打率.193
2020年:112試合95安打8本塁打39打点8盗塁 打率.251

松山竜平(来季36歳)
2018年:124試合120安打12本塁打74打点2盗塁 打率.302
2019年:110試合76安打6本塁打49打点0盗塁 打率.259
2020年:108試合112安打9本塁打67打点0盗塁 打率.277

 このように、全員が揃って停滞期を迎えていることがよく分かる。中でも気になるのが、丸とともに“タナ・キク・マル”トリオとして、攻守にチームを牽引した田中と菊池だ。

 田中は故障に苦しんだ昨年と比べると、今年は少し持ち直した印象だが、守備と走塁に関しては完全に全盛期を過ぎた印象は否めない。かつてのように不動の1番、ショートとして1年を通じて働くのは難しいだろう。

 一方、菊地はどうだろうか。今年、セカンドとしては史上初となる守備率1.000という偉業を成し遂げたとはいえ、コンディション不良からスタメンを外れる試合が増えた。過去3年間の補殺数を見ても、420→387→310とはっきりと減少している。今年の盗塁数もわずかに3つだけで、これはプロ入り後最低の数字。足で相手チームを撹乱した走塁は、すっかり鳴りを潜めている。

 くわえて、残留選手の成績以上に懸念されるのが、世代交代の遅れだ。ドラフトでは、2017年に中村奨成、2018年に小園海斗という“超高校級”を2年連続抽選で引き当てたが、主力が揃って残留した影響で、彼らを抜擢しようという機運がなかなか高まってこない。

 中村はプロ入り3年目の今年ようやく一軍初出場を果たしたが、わずか4打席の出場に終わり、プロ初ヒットを記録することもできなかった。小園は昨年、ルーキーながら一軍で40安打、4本塁打を放ったものの、同じくショートを守る田中が復帰した今年は、わずか3試合の出場にとどまっている。

 特に、苦しい立場に追い込まれているのが、捕手の中村だ。会沢に続く捕手では1学年上の坂倉将吾が存在感を示しており、実績のある磯村嘉孝も控えている。大ベテランの石原慶幸が現役を退いたとはいえ、中村が一軍の“第三捕手”に入ることすら、見えてこない。

 若手選手が飛躍するためには、重要なのはとにかく一軍の試合で経験を積むことだ。そこで提案したいのが思い切ったコンバートである。まず、中村は肩の強さだけでなく、フットワークを持ち合わせており、サードで起用しても面白いだろう。今年、堂林翔太が鮮やかな復活を果たしたが、守備の不安定さは相変わらずであり、一年を通して、サードのポジションを任せるだけの安定感はない。同じくサードを守れるベテランの小窪哲也が、今季限りで退団するなど、捕手よりもサードのほうがチャンスはより多いだろう。小園もまた、ショートだけにこだわるのではなく、セカンドをはじめ、他のポジションの起用を増やして、実戦経験を積ませるのもひとつの手ではないか。

 広島は、12球団で唯一FAによる獲得実績がなく、自前で選手を育てることをモットーとしているだけに、若手の出遅れは“致命傷”になる可能性が高い。主砲の鈴木誠也が、契約更改の場で、「このままでは弱くなる」と危機感をあらわにしたが、それも当然という現状である。このまま、再び暗黒時代に突入するのを防ぐためにも、若手の有望株をどのようにして引き上げていくか。この点を改めて考える時期に来ているのは間違いないだろう。就任2年目の佐々岡真司監督には、今年とは違う思い切った選手起用、若手の抜擢に期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月21日掲載

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