低調だった秋の恋愛ドラマ リアリティーと今日性の欠如で視聴者がソッポ

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大衆作にも評価を

 ドラマ界、批評界の考え方と視聴者ニーズの乖離もドラマ不振の一因だろう。これもズレだ。

 例えば「半沢直樹」は2013年版の平均世帯視聴率が28・7%、この夏の放送も同24・7%に達したが、ドラマ界の由緒ある賞とは縁遠い。獲れるのはテレビ誌などが独自に主宰する賞くらい。大衆作、娯楽作であるからだ。

 文学界には純文学と大衆文学にそれぞれ大きな賞があり、同等の評価を与えようとしているが、ドラマの場合は哲学性やメッセージ性の強い作品に高い評価が偏りがち。大衆作、娯楽作には冷淡だ。

 批評界にも同じ傾向がある。多くのドラマ評で高く評価されたドラマが、視聴率は悪く、SNSでも酷評されることは珍しくない。それだけなら別に問題ないが、制作者の中には視聴者ニーズより評価を優先してしまう人もいる。それではドラマが大衆から離れてしまう。

 秋ドラマも平均世帯視聴率のトップは14・5%の「七人の秘書」(テレビ朝日)だったのに、批評界の評価は高くない。というより、ドラマ評自体が少なかった。「半沢直樹」と同じく大衆作、娯楽作だからだ。大衆作、娯楽作ももっと評価されるべきだろう。

「姉ちゃんの恋人」は批評界の評価は高いが…

 一方、第7話(12月8日)までの平均世帯視聴率が7・5%ながら、批評界では高く評価されているのが、有村架純(27)主演の「姉ちゃんの恋人」(関西テレビ=フジテレビ系)である。

 恋人への純粋な愛、家族愛、友愛など良心的なメッセージが織り込まれていることが理由の1つだろう。脚本は大御所の岡田惠和氏(61)である。岡田氏は過去にいくつもの珠玉作を書いてきたので、そもそも批判されにくい。

 だが、あえて世帯視聴率を低くしていると思われる要因を挙げたい。やはりリアリティーと今日性の不足だ。

 主人公の桃子(有村)は両親が交通事故死したため、ホームセンターで懸命に働きながら、3人の弟の面倒を見てきた。決して横道に逸れなかった。

 この主人公のキャラクターについて、前出の同志社女子大教授の影山貴彦氏は「『こんなにエエ子がどこにおるねん』と思う人もいるでしょうね」と語っていた。確かに無理がある気がしてならない。少なくとも世間一般の感覚とは違う。すると、見る側は桃子に共感しにくい。

 ホームセンターの同僚も全員が良い人。この構図は平均世帯視聴率が15%だった夏ドラマ「私の家政夫ナギサさん」(TBS)と同じだが、「ナギサさん」はハートフル・ラブ・コメディであり、映画「男はつらいよ」と同じ現代のお伽話だったから、成功を収められた。

 片や「姉ちゃんの恋人」の作風はシリアス。同僚で恋人の吉岡真人(林遣都、30)に傷害の前歴があることが物語のカギの1つになっているくらいなのだから。

「視聴率がすべてではない」という人もいるに違いない。確かにその通り。視聴率が平凡でも感動を与えてくれるドラマは珍しくない。

 半面、視聴率を無視するのは大衆の意向をないがしろにすることと同じ。ドラマ制作者なら一定水準以上の視聴率を目指すべきだ。地上波は特別な人のためにあるのではなく、大衆と共に歩むメディアなのだから。

「ネット動画など余暇の楽しみが増えたから、もうドラマで高視聴率は無理」と言われていたが、7年ぶりの「半沢直樹」が高視聴率を得て、それが必ずしも正しくないことが証明された。秋ドラマの不振とコロナを関連付ける向きもあるものの、「半沢直樹」はコロナ禍の中で放送されたのだ。面白かったら、みんな見る。

 1月からは冬ドラマが始まる。大衆の期待に合った大ヒット作が生まれることを期待したい。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月20日掲載

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